第59話 追跡者

 アディと別れた男はマルコとリトを連れ、カムラ達についていく事になった。

 用心棒として雇われて、行動を共にする。

「なぁに、出世払いで大丈夫です。それと、これを持ってなさい。多少無理をしてでも、予備の武器は持ち歩いた方がいいですよ」

 男は武器を失くしたカムラに、腰のバスタードソードを渡す。

 見込みがあると思ったのか、余りにも酷いと思ったのか、気まぐれか。

 暇な道中3人の若者へ生き残る為の知識と、戦い方を教えながら首都を目指す。


 首都へ着く迄襲われる事もなく、気持ち悪いほど無事に進めた。

 ギルドからの情報を掴んだ追手も、あの研究所で死んでいるのかもしれない。

 各地を帝国に占拠されている割には、街は平常通りに見え、静かだった。

 占領された町からも人が来ている所為か、国民に危機感や恐怖はなさそうだ。

 指定された建物へ行くと、麻のガラビアのようなワンピースを着た男がいた。

「予定が変更になった。それを狙う奴らが街に入ったようなのだ。そいつらは我らで足止めするので、君達で直接ソレを届けて貰えないだろうか。追加の報酬も用意するつもりだ。議事堂で議員のダビド氏が待っている。必ず、直接渡して欲しい」

 そこへ派手なシャツに派手なオレンジの短パン姿の若者が飛び込んで来た。

「もう嗅ぎつけたか! 早く行ってくれ。コイツはどうにかする」

 若者はナタの様な物を持って襲って来た。

 民族衣装ガラビアの男も服の中から、短めのサーベルを取り出し応戦する。

 男がパン! と手を叩く。

「はい、止まらないで。議事堂へ急ぎますよ」

「は、はい」

 カムラは、ガラビアの男が気になるようだったが、シアに促され駆け出した。

「でも、議事堂なんて何処にあるのか知らないよ」

 トムイが走りながら叫ぶ。

「ついて来て下さい。案内します」

 マルコが先に立ち、3人を先導して走って行く。

 男とリトが追跡者を始末しながらついていく。


 依頼者のダビドに対抗する一派なのか、議事堂に近づく程、追跡者が増えていく。

 大きな門をくぐり、議事堂の入口で、3人の追跡者に追いつかれてしまう。

「ナイフは毒が塗ってあります。触らないように気を付けて!」

 マルコが少年達に叫ぶ。

 カムラがバスタードソードを抜き、追跡者の一人に斬りかかる。

 ナイフだけで剣を捌き、カムラを誘い出し一人引き離す。

 剣技や力よりも、経験が違い過ぎるようだ。

 トムイもナイフを使い一人を足止めするが、危なそうなのでマルコが加勢する。

 当然、残った一人はシアへ向かう。


「かはっ……」」

 シアへ飛び掛かる、毒ナイフの追跡者の脇に、後ろからかかとが突き刺さる。

 男の飛び後ろ回し蹴りが、追跡者の肋骨を砕き、入口の柱に叩きつける。

「格闘が出来なくとも、動きを止めずに警戒しなさい。リトをよく見てみなさい」

「は、はい。すみません」

 シアはリトの姿を探すが、何処にいるのか気配すらない。

 シアに声を掛けた男は、胸のベルトから抜いたダークで追跡者にとどめを刺す。

「リト。そっちは任せる。仕留めろ」

 リトに指示を出した男は、引き離されるカムラへ向かう。

「ぐぁ……な、なんだ……くひゅっ……」

 トムイとマルコが戦っていた男が、突然前に倒れる。

 後ろから足首をパックリと切り裂かれていた。

 何が起きたのか理解できないまま、背中に飛び乗ったリトにノドを掻っ切られる。 

 仕留めたと思った時には、またシアの視界からリトは消えていた。

「うそぉ……無理でしょ。マネするどころか、目で追えないんですけどぉ」

 相手のレベルが高すぎて、参考にもならない。

 シアは取り敢えず邪魔にならないように、柱の陰に隠れる処から始めてみた。

「目の前に夢中にならず、周りを警戒して、仲間との連携を心がけて戦いなさい」

 いつの間にか、カムラの後ろに回り込んだ男が、指示を出す。

「剣の間合いで戦えば、ナイフでは何もできません。落ち着いて自分の間合いで戦いなさい。剣がギリギリ届かないくらいが、アナタの間合いです」

 カムラの後ろにつきながら、男がこっそり戦い方を教える。

「ナイフを持つ、相手の指先を狙うのです」

 牽制にナイフを突き出した処へ、それを待っていたカムラの剣が、カウンターで追跡者の指を切り裂いた。

「今です! 踏み込んで、首筋です」

 大きく踏み込んだカムラの剣が、スッと跳ね上がり、男の首筋を刎ね切った。

「そのまま駆け抜けて」

 男が背中を押して、走らせる。

 ぱぁっと首筋から飛び散る血を躱すように、カムラが左側を駆け抜けた。


「え……何? カムラってあんな事できたの? あのおじさん、何者なの?」

 柱の影から覗いていたシアが、信じられないと呟く。

「上手くできたなぁ。えらいぞぉ」

 カムラの後ろに付いていた筈の男が、いつの間にか入口に居てリトの頭を撫でていた。見ているものが理解できず、シアの顔から変な汗が噴き出していた。

 トムイとカムラも不思議なものを見たような、変な顔で固まっている。

「うぇへへへ」

 そんな3人を気にもせず、リトは撫でられて御機嫌なようだ。

 男は何か違和感を感じていた。

「対抗勢力の手の者だけか? 何故、持っている物や場所が分かっているんだ?」


 広い建物の中、どこで依頼者が待っているのか。

 追跡を振り切った6人は、取り敢えず議場を目指す。

 議場は2階にあり、3階までの吹き抜けになっていた。

 天井はステンドグラスの天窓となっていて、光が入り明るかった。

 正面中央に議長席と演壇があり、その下に速記者席がある。

 議長の隣は事務総長席で、左右に国務大臣、後列に事務局職員の席がある。

 演壇を中心にして、半円形に議席が広がっていた。

 特に反響防止に配慮した造りで、柱や壁には石材を使用せず、なるべく木材を使用しているようだった。

 議場全体に凹凸を付け、細部にまで彫刻を施し、特に壁には絹布が使用してある。

 天井や床にも反響防止の様々な工夫がなされているようだ。

 そんな議場の演壇前に、男が二人立っていた。

 カムラ達3人は知らないが、マルコが男に耳打ちする。

「この国の有力議員ダビドとイルサンです。奴らが黒幕のようですね」


「おお。冒険者達だな。よくぞ無事に辿り着いた。さぁ、ぁ……あ?」

 イルサンのナイフが、ダビドの背中に突き刺さった。

「研究成果は私の物です。貴方はもう必要ありません」

 追跡していたのは対抗勢力だけではなかったようだ。

 仲間割れ、イルサンも自分一人だけが助かる気でいた。

「そこまでだ! 悪魔の研究は続けさせない!」

 大きな音を響かせ扉を開けて、帝国軍人達が入ってきた。

 さらに天井のステンドグラスが、粉々に砕け散り降り注ぐ。

 巨大な翼を持つ何かが、議場へ降って来た。

 豊満な胸を露わにした、褐色の長い髪の女性が甲高い声で叫ぶ。

「キョオオオオオ!」

 空には巨大な影が飛び去っていく。

 黄金の鱗が陽の光を反射して光り輝いていた。

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