第54話 脱走犯
王国の北側、国境も近い村の近くに、大きな洞窟があった。
古い水神を祭る祭壇だか、
海も川も湖もない内陸の地下に、水の神という謎の
そこへ何かが住み着いたらしい。
ソレは人を襲い腹の肉と臓物を喰らうという。
川に住み人の臓物以外を食べるという馬とは逆の何かだった。
東では戦が始まり、西の帝国も戦の準備をしているという。
洞窟のすぐ北では内戦が落ち着いたばかり、まだ不安定な状況の評議国がある。
村人にも被害が出ていたが、兵を動かせない状況になっていた。
この世界にはクナミィスギルドと呼ばれる日雇いの派遣会社があります。
国をまたぐワールドワイドでグローバルな組織です。
主に民間からの依頼を受け、加入者に斡旋しています。
薬草や資材の収集をしたり、未開拓の土地、遺跡などの危険度調査をする
賞金首や増えすぎた動物、
危険のある遺跡の学術的調査や、そこからの横流し品で行商をする
基本、街の中で作業をする
彼らがA~Fのランクに分けられ、ギルドから仕事を貰っています。
ランクはギルドからの信頼度です。
依頼を達成すると上がります。
EFは信用がないので、依頼を受ける為には、報酬と同額の保証金が必要です。
低ランクの者は収集や労働、一部の狩りをして暮らします。
無駄に死人を出さず、依頼の成功率を上げる為のシステムです。
現在Sランクは世界に2人だけ存在します。
南の皇国に狂戦士が一人、北の評議国に魔法使いが一人います。
「すまなかった。何か役に立ちたかったのだ」
廃墟となった村で男達4人が合流すると、カリム様が男に頭を下げる。
これには男も驚いた。
まさか謝る事ができる人だったとは。
「次は助けませんが、済んだ事です。次からは安全な処で見守って下さい」
「わ、わかった。そうしよう。しかし……凄まじいな」
村中に散乱するオーク達の惨殺死体を見回し、カリム様はブルッと身を震わせる。
「報告の為にボスの死体も確認して貰いますが、場所はリトから後程……」
「あ、ああ。それより傷の手当が先だろう。大丈夫なのか? 死んだりしないか?」
カリム様は
「リトが縫ったので平気です。そんな事よりもこちらの壁に寄って下さい」
「5……ううん、6人。たぶん人間」
リトが報告すると、崩れかけた石壁の陰から、アウトローな男達が姿を見せる。
「へっへっへ。俺はついてるぜ。ケガをして動けないお前に会えるとはなぁ」
町で警備から逃げたメリージが5人の仲間を連れていた。
今なら恨みを晴らせると思ったようだ。
まだ頭がガンガンと鳴っている男は、不機嫌な顔で立ち上がる。
何も言わずメリージに歩み寄ると、左の拳がメリージの脇腹に突き刺さる。
「っ! がっ……」
反応もできず、まともに喰らったメリージの体が二つに折れる。
「な、何しやがる!」
隣にいた賊が男の襟を掴む。
その手を一瞥した男は、面倒くさそうにシャツを掴んだ指の下に、自分の指を滑り込ませ、中指を掴んで握りしめる。
割箸でも割るように、そうするのが当たり前のように、襟を掴んだ指を折った。
「ひぃっ! きぃあああああ! お、折れ……ぐぅああああっ」
男の掌底が顎を斜めに突き上げる。
「指一本くらいで騒ぐな」
賊は涎を垂らし、膝から崩れ落ちる。
男は隣のもう一人へ踏み込むと、ノドへ右手を伸ばし鷲掴みにする。
のど輪で締め上げ、足をはらう。
宙に浮き、重さと自由を失った体を、地面に叩きつけようと頭を引き下ろす。
反転して背中合わせに体を潜り込ませる。
まっすぐに立っていた賊は、上下逆に頭からまっすぐ落ちる。
当然のように、その顔には男の足が乗っていた。
足を掴んで自分の体重をかけ、顔を踏みつけながら地面に頭から叩きつける。
残りの3人は何が起きているのか、分からないような顔で呆けていた。
せめて逃げ出せばいいのに、何も出来ずに立ち尽くす。
「何もせずに見ているだけか。かかって来い」
今さっき、何もせず見ていろ。と言われたカリム様は複雑な表情だ。
「う、う……うわぁ!」
中の一人が叫び出し、男に殴りかかった。
それを見ながら背中に廻り込む。
右足を右前方へ出し、そちらに体重をかけて体を開く。
右足を軸に体を半回転させて、突っ込んで来た賊の背後を取る。
廻り込んだというよりも、賊が勝手に背中を見せた状態だ。
胸のダークを一本抜くと、目の前の首へ突き刺した。
グリグリと中で大きく横に捻じりながら抜くと、口を大きく開けたまま、糸の切れた操り人形のように、グチャっと崩れ落ち倒れ込んだ。
男が振り向くと、一人はリトに後ろから、ふくらはぎを斬られ倒れる。
麻痺した賊の首を踏みつけ、男がとどめを刺す。
最後の一人のケツにリトのクロスボウがあてられていた。
「ま、待ってくれ。お、俺……俺は、何もしてない。殺さないでくれ」
「すまないな。俺は臆病なんだよ。仕返しが恐いから生かして帰す気はない」
「そんな……もう、アンタには関わらないよ。絶対だ」
「お前を生かしておくメリットがない。リト始末しろ」
「あい」
男の命令に対して、リトに躊躇はない。
脊髄反射のように、すぐさま命令を実行する。
「ま、待ってくびゅいっ!」
クロスボウがケツの穴に放たれた。
上に向けて放たれたクォレルが、胸元まで駆け上がる。
倒れている賊のとどめもリトに任せると、男がメリージにゆっくり迫る。
うずくまったまま動けずにいる、メリージを鷲掴みにして、無理矢理立たせる。
「え、まっ、ぎゅっ……ああああああああ!」
横に長く目の粗い石壁に、メリージの顔を叩きつける。
その頭を掴んで押し付けたまま走り出す。
ザリザリとした石壁に顔を擦りつけ、長く太い赤い帯のような痕をひいていく。
顔の皮も肉も鼻も削げ落ち、涙を溢れさせ瀕死のメリージを見下ろす。
両肩を外し、膝も砕いて動けなくしてから放置する。
「後悔しながら、ゆっくり死んでいくといいさ」
カリム様とマルコが抱き合うように、身を縮めてしゃがみ込んでいた。
「お待たせしました。やりすぎてしまいましたか? 臆病なので、すみませんねぇ」
「は……ははは。怪我は、平気そう……だな」
カリム様が絞り出すような声を出す。
「怪我の所為で、ついやり過ぎました。根が臆病なもので」
「おくびょう……なのか、そうか」
「揉めるのは割に合わない。と、相手に思わせる事で身を守ってきたものですから」
「そ、そうか。そうだな。うん。徹底するのは大事なことだな」
惨劇を見たカリム様は声が震え気味だが、マルコは声も出せないようだ。
感情的になったか、少しやり過ぎたかもしれない。
涎を垂らしたリトが、指を咥えてジッと死体を見つめている。
真っ赤なソースのかかった、御馳走にでも見えるのだろうか。
人を食べないように、お腹を空かせたリトを宥めながら少し休む。
流石に人を食べさせるのは、よろしくない気がする。
メリージが動かなくなるまで休憩して、森の死体を確認してから村へ戻る。
メリージは名前と殺人犯なだけで、
有名なあのメリージさんとは関係ありませんので混同せず、お楽しみください。
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