第53話 掃討戦

 帝国に包囲された共和国首都では、元首ムハマド以下、政治家共が集まっていた。

 帝国への対策の為の密談を、無駄に繰り返していた。

 帝国は専制君主制なので、皇帝の一言で全てが決まるので万事行動までが早い。

 しかし共和国は多数決の国で、いつまで経っても何も決まらない。

 誰もが責任を取りたくないので、責任を押し付け合っているだけだった。

 共和国議員の4人が、元首ムハマドを囲む。

 ダビド、イルサン、サディリ、ダビカ女史と無駄な密談をしていた。

「先々代の皇帝が言っていた、大陸統一に動き出したのか?」

「何故、宣戦布告もなく突然攻めてきたのでしょう」

「しかも歴戦の将軍ヨシュアと主力の騎士団で攻めてきてますからな」

「あの若造め。もう少しマシな皇帝だと思っていたが」

「すっかり包囲され、援軍の要請も出せない」

「何が目的なのか、降伏勧告もありませんな」

「誰か使者を送り、話し合うのが宜しいかと」

「貴方が向かわれるのか?」

「い、いいえ。私は……その……いろいろと……」

 そんななんの意味も進展もない密談だけが、包囲された首都で繰り返されていた。


 責任をとりたくない者共の密談が続く、戦火広がる共和国。

 隣国では己一人の判断と責任で、命を懸ける男が死力を尽くしていた。

 男は剣を抜き、ボス目掛けて一直線に駆け出す。

 その間に割り込もうとする二体のオークを一息に斬り倒し、剣を左手に構える。

 右手を柄頭に当て、分厚い鉄板のような剣を振り下ろすボスの懐へ飛び込む。

 地を蹴り身体ごとオークにぶつかり、鍔近くまで深々と腹を貫いた。

 怒りに任せ突き刺して、抜けなくなった剣を手放す。

 抜く手も見せない脇差の抜き打ちが、閃光となってボスの首筋を刎ね切った。

 倒れるボスオークに目もくれず、男はリトを連れ走り出す。

 ボスを討ち取られ、動きを止めていたオーク達も、我に返り男を追う。

 西へ、男とオークが走る。


 オークに襲撃され、廃墟となった村へ入る。

 やっと予定通りに修正が出来た。

 形を残す頑丈そうな家に入り、玄関でオークを迎え撃つ。

 入り口にオークを立たせて、脇差で切り伏せる。

 狭い木枠がオークの邪魔をしてくれる。

 ほぼ突きだけしかできないので、噛みつきと蹴りに注意すれば比較的楽に戦える。

 それでも脇差は多数相手の為の武器でもないので、数を減らしたら外へ出る。


 日本刀は一対一に向いた武器です。

 折れない曲がらない世界一の刃物ですが、限度があります。

 特に昔の日本では相手も日本刀なので、乱戦向きではありません。

 打ち合えば刃毀れもするし、折れも曲がりもします。

 多数を相手にするなら、刀よりも槍や薙刀がおすすめです。

 室内なら仕方ありませんが、広い場所で戦う時は薙刀を使用しましょう。


 村の広場で残ったオークを掃討するべく待ち受ける。

 残り7体となったオークが広場に殺到する。

 ボスを倒せば、逃げ出すのもいるかと思ったが、人望のないボスだったようだ。

 逆に、もしかしたら慕われていたのか、男を逃げずに追ってきた。

 日本刀ではあるが、多数相手を想定してつくられた刀もある。

 男が脇差を手放し後ろへ手を伸ばす。

 残ったオークが男へ飛び掛かって行く。

 男の手に長い柄が握られ、リトが摺足で退いていく。

 抜刀された野太刀に左手が添えられ、逆胴へ横薙ぎに払われる。

 飛び掛かったオーク2体の腹が裂け、ワタが飛び散る。

 血飛沫の中、男がさらに踏み込むと、左に流れた刀が上段から振り下ろされる。

 斬られた2体の奥にいたオークの、真っ向から頭へ斬り込み、刀が首まで入る。

 ビクンビクン。と体を痙攣させるオークに足をかけ、刀を無理矢理引き抜く。

 頭を割られた死体を、左から来るオークへ蹴り飛ばし、右の2体へ襲い掛かる。

 手前の一体を袈裟懸けに仕留めると、刃を返しもう一体のノドを切り裂く。

 深く大きく喉を切り裂かれたオークの頭が、後ろに反り返り垂れ下がる。

 仲間の死体を跳ね除けたオークへ、男の蹴りが入る。

 野太刀を持った野太刀キックで体勢を崩し、オークを斬り伏せた。

 そのスキを狙い最後のオークが、古びたシミターを振り下ろす。

 避けられないタイミングに、殺意が恐怖を塗りつぶす。

 男は避けようともせず野太刀を手放すと、胸のダガーを抜いてノドを貫く。

 シミターの根元を頭で受け止め、そのままナイフを押し込む。

 左手でダガーを捻じり込み、右手で腰のナイフを抜くと脇に突き刺した。

 抱き合うように倒れ、オークにとどめを刺した男が立ち上がる。

「ふぅ。古いなまくらで助かったな」

 古びたシミターは頭の皮を切り裂いただけで、骨で止まっていた。

 オークはろくに武器の手入れをしていなかった、おかげで助かったようだ。

 それでも血は顔半分を赤く染め、衝撃で頭の中にいつまでも鐘が鳴り響いていた。

 叫ぶ間も与えず7体のオークを始末して、廃墟の壁に寄りかかると腰を下ろした。

 男が武器を洗い、血を拭う間にリトが応急処置をする。

 脇腹は浅かったが、左腕と頭の傷は消毒してリトが縫う。

 リトは手際よく済ませると、カリム様とマルコを呼びに走っていった。

 傷の治療は別料金にして貰わないとな。

 男は疲れ果て、そんな事を考えながら迎えを待った。


 海沿いの村を占拠した帝国軍だったが、指令室で部下を叱責する声が響く。

「それで貴官は何もせず戻ってきたのか! 貴様それでも帝国軍人か!」

 怒鳴っているのは副官のロビンだった。

 共和国軍は撤退する際に、村の食料を全て徴収していったそうだ。

 近隣の村も全て、食料がなくなっていた。

 それを報告に来た士官が叱責されていたのだ。

「し、しかし、今夜食べる物すらないようでして……致し方なく……」

「バカ者! 我が軍の食料は2週間分はあるだろう。半分でも分け与えれば暫くは持つだろう。近隣の村の状況、人口も急ぎ調べよ。彼らは既に帝国民である。飢えさせてはならぬ。急ぎ手配せよ!」

 村人が可哀想だからと、帰ってきた士官も大概だが、上司はさらにおかしかった。

 その騒ぎにゴツイ髭面の将校が現れる。

 将軍ヨシュアがロビンを睨む。

「何年副官をやっている。軍の食料を村人に分けるだと?」

「はっ!」

 当たり前だという様な顔のロビンと、青い顔で声も出せない若い士官。

「ひぃ……」

 厳格な将軍にバレては、軍法会議か銃殺かと報告に来た士官が震えあがる。

 しかし、そんなものでは済まなかった。

 甘い上司の上司はさらに頭がおかしかった。

「食料がないのならば、数日凌しのいだ処で意味はなかろう!」

「はっ! そうでした。次の収穫までの食料を用意します」

「取り急ぎ今ある食料を村へ配給せよ。至急本国に食料の輸送要請をだせ」

「近くに森と海があります。何か狩って、食料にします」

「うむ、先ずは民が優先だ」

 占拠された村、町、都市、全てで略奪、暴行等は一切なかった。

 軍隊が常駐しているので、犯罪もなく、周りのモンスターも退治してくれる。

 国民は暮らしやすくなったと、喜んでいた。


 将軍からの頭のおかしい報告と、支援要請を受けた皇帝はすぐに動いた。

 共和国の各地で育つ作物や、増やせる家畜も付けて、大量の食料を運ばせた。

 何がしたいのだろうか。

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