第51話 誤算
共闘は苦手だった。
村が近くなってから、男は他の面子が気になった。
「他の人達は村で落ち合うのですか?」
「他……ですか?」
マルコは意味が分からないようでキョトンとしている。
「オークの群れと戦うメンバーの事ですよ」
「いえ。貴方一人だけですが。なんでも一人の方が得意だとか」
群れを一人で相手にしろと、頭のおかしい依頼だった。
「まさか、そんな事になっていたとは。流石に予想もできませんよ」
「オークの群れは30体前後います。エミール様が、全て貴方に任せよ。と」
傭兵に無茶な依頼はいつもの事だ。
と、頭を切り替える……が、30体は無理だろう?
村に着くと、倒れかけた簡素な木の柵があるだけの集落だった。
「簡単な方法を思いつきました。村を焼き払いましょう。村が無くなれば、オークに襲われなくて済みますよ。解決ですね。帰りましょう」
「いやいやいや。真面目にやって下さいよ」
帰ろうとする男をマルコが慌てて止める。
「この集落の為に命を懸けろと? こんな所に住んでるから襲われるのでしょう」
森の近くだが、周りに何もない広々とした荒野に、集まって暮らしていた。
襲って下さいと言っている様なものだ。
「エミール様の知り合いの貴族の領地なのです。オークを退治して貸しを作り、その貴族を上手く使いたいという企みらしいです。なんとかなりませんか」
「まぁまぁ。オークくらい何十匹いても勝てるんだろ? いいじゃないか」
どんな話が伝わっているのか、カリム様も余裕だろうと言い出す。
「どんなに力の差があっても、数には勝てません。人間である限り、どんな達人だろうと10人で囲めば殺せますから」
「マルコ、村人の協力は得られるな」
何を思いついたか、カリム様がマルコに
「自分達の村の為ですから、協力はするでしょうが戦闘は無理ですよ?」
「道を作らせよう。高い塀や柵で村までの道を作るんだ。オークが攻めて来るのに、そこを通らないといけないような道を作らせる。後は落とし穴もな。狭い道でなら、アンタがオークを倒せるだろう? 落とし穴で数も減らせるかもしれないしな」
気楽なボンボンの割には、賢いのかもしれない。
「いい案です。村への道が一本しかない場所ならいけますが、周りに何もないので、どうしようもありませんね。それに、オークが作業をじっと待ってくれるものでもありません。今回は無理ですね。こちらから攻めるしかないでしょう。奇襲です」
いつからか、オーク達が南の森に住み着いたらしい。
森の西にあった村は、オークの襲撃で滅びたそうだ。
次はこの村が襲われるだろうと、救援を待っていたらしい。
「逃げればいいだろう。何故逃げ出さないのだ」
カリム様が不思議そうに訊ねた。
「住み慣れた土地からは、なかなか離れられないものなのです」
「ふん……なるほど。そういうものか」
マルコが答えると、納得したのか頷いていた。
知識と経験があれば、意外と有能貴族だったりするのかもしれない。
エミールの傀儡として、見つけて来た訳でもないようだ。
村人に会いたくない男は、リトを連れて村の外で待っていた。
「まぁ、予想通りの反応だったな。一兵も連れず、騎士団も来ないのではな」
あからさまにガッカリされたようだ。
見棄てられたとでも思ったのだろうか。
「村の協力は得られません。我らだけで、どうにかしないといけませんね」
マルコが男に
やはり村を焼くのが一番ではないだろうか。
どうせ死ぬのなら、戦うしかないと思うのだが、男には戦わない村人の気持ちが理解できずに、気持ち悪かった。
やはり奇襲しかないだろう。と、話が決まり森に入る。
「二人を守りながらは戦えません。離れた所へ隠れていてください」
「承知しました」
男の指示にマルコが素直に従う。
戦闘に参加する気はなさそうだ。
鬱蒼と茂った薄暗い森を進むと、リトが立ち止まる。
「いたか?」
男が囁くような声でリトに確認する。
「あぃ。オーク。たくさんいる」
迷宮で得たスキルを失って範囲は狭くなったが、獣人なだけに人間と比べれば、かなり広範囲の索敵能力があった。
唯一のウサギ要素、頭の小さな耳をピコピコと動かしながら、リトが周りの気配を探り、出来る限りのオークを感知する。
「二人はココで待機して下さい。いつでも逃げられるように」
「わかりました」
マルコとカリム様を残して、男はオークに察知されないギリギリまで進む。
男とリトは木陰から様子を探る。
倒木があり少し開けた場所にオークが集まっていた。
襲撃の準備でもしているのだろうか。
群れを率いているボスを確認したいが、見える範囲にはいなかった。
背の高いムキムキのゴブリン。
そんな感じの亜人が30人前後いるとなると、群れから離れた者から暗殺していき、数を減らした処で、ボスを殺してから奇襲で殲滅。
それしかないかと、男が暗い気持ちになっていると、さらに追い打ちのサプライズがもたらされた。
男が覗いている開けたオークの溜まり場を、向こう側へ迂回して、廻り込もうとしている人影が見えてしまった。
後ろに置いてきた筈のカリム様だ。
何をしてくれているのだろうか。
倒木の向こう側に辿り着き、殴りたくなる様な爽やかな笑顔で、親指をグッと力強く立てている。
「まさか……いやいやいや。まさか……そんな……あ……」
素人が森の中をガサガサと移動していたのだから、当然オーク達は気付いている。
カリム様は気付かれていないので、奇襲できると思っているようだ。
必死にマルコが止めているようだが、カリム様が剣を抜いた。
どうする? どうしよう……どうする!
男は頭の中がグチャグチャになる。
予想外すぎるカリム様の行動に、頭がついていかない。
カリム様がオークに突撃した。
何故そんな開けた場所へ出ていくのか。
奇襲ではなく、エサを与えただけだ。
運命の女神が居るのなら、その指を一本一本ちぎって、魚のエサにしてやりたい。
バシャバシャとエサに魚が群がり、泣き崩れる女神を想像すると、少し落ち着いついてきた。昔の仕事で護衛対象が敵だった、あの時以来のサプライズだ。
男はチャンスを投げ捨て飛び出すと、カリム様を殴り飛ばした。
「マルコ、連れていけ。二度は助けないぞ」
「は、はい!」
マルコが慌てて、倒れたカリム様を引き摺って行く。
掴み掛って来るオークに、振り向きざま蹴りを入れる。
腰を使った左のミドルキックが脇腹に刺さる。
と、同時に地を蹴りオークの頭を両手に掴むと、右膝が顎を砕き突き上げる。
真空飛び膝蹴りで一体を倒すと、木陰に入り、素早く森の中へ潜っていく。
当然オーク達は武器を取り、男へ向かって殺到する。
木々の生い茂る、獣道もない森の中へ紛れた男が、オークの群れに囲まれる。
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