第48話 白い剣士
裏路地の小さな家に入ると、二階の部屋へ案内された。
「先ずはこちらから、話しましょうか。言葉は通じていますよね?」
男とリトをテーブルにつかせ、青年剣士とエミール
「大丈夫です。こちらの言葉を覚えましたから、会話くらいはできます」
「凄いですね。発音まで完璧ですよ。さて、以前お話ししたかもしれませんが、私は名ばかりの騎士団に入団して、今は
男もこちらに残り、暮らしていくつもりだと説明した。
「今あちこちに問題が山積みでして。どうでしょう、少し手伝って貰えませんか」
大陸のほぼ中央に位置する王国は貴族社会です。
と、爵位があります。(ルビは英語で右は王国語です)
伯爵はさらに幾つかあったりはしますが、爵位は伯爵です。
みんな大好き辺境伯は、伯爵になります。
王国では一人、西に領地を持ってます。
辺境とは王城から遠いだけで、田舎の山の中とは限りません。
余り仲のよくない国との境に領地を持っているので、国境を守る貴族が辺境伯です。砦を築き、兵を募り、他国との交易で金もあります。
忠誠が高く、王からの信頼厚い臣下です。
王国は少し丘陵地帯がある程度で、残りは森や平原、草原の、なだらかな地形がほとんどとなっています。
日本の侍と同じく、爵位は基本、一家に一人です。
何人も収入があると、他の貴族から文句が出ます。
一部の権力者か、王様の特別なお気に入りだと、家を継がなくても仕事があったりする者もいます。
父親が引退するまでは、息子は貴族ではなく貴族の子息となります。
エミールは特別に一時、騎士となり、父親の侯爵を継ぐ事が決まっています。
「今、世界情勢が不安定なのですが、わが国は他国に囲まれているので、対応が間に合わないのですよ。北と東が急ぎの案件ですが、西も不安です」
南側の国々とは友好的な国交をしてはいるが、どこかと揉めたらどうなるか。
王国の南は女皇が治める皇国があります。
雪山と雪原の雪国です。
南東には共和国があります。
貴族も王族もいない変わった国です。
共和国の北側には東の帝国があります。
つい最近、政権交代で若い皇帝が治めています。
かなり思い切った粛清があったようで、まだ不安定な国です。
皇国のさらに南には、宗教で治める大国、法王の法国があります。
温暖な気候で、北の山と南の海に囲まれた平原が広がっています。
王国の西は帝王が治める軍事国家、帝国があります。
いつ戦争を仕掛けて来るが分からない、危険な国です。
北は幾つもの部族が集まり、連邦を名乗っていましたが崩壊しました。
大きな部族の長、首長達で評議国として纏まりましたが、不安定です。
荒野と砂漠が多く、ほぼステップ気候で、小さな部族が乱立しています。
「今一番危険なのが東の帝国です。帝位についたばかりの若い皇帝ですが、聡明で国民にも人気があったのですが。突如、南の共和国に攻め入りました」
「あいつが言ってた戦争はそれか……」
「聞いていましたか。攻め込んだ理由も分からず、いつこちらも巻き込まれるのか。とにかく、今は情報を集めているところです。宮廷は共和国からの救援要請をどうするかで、連日もめてますよ」
最下層で黒い魔族が言っていたのは、帝国の侵攻だったようだ。
「絶妙なタイミングでやらかしてくれたな」
帝国の所為で、あの魔族に殺されかけたのかと思うと、つい口から洩れてしまう。
「何の事です?」
黒い剣士の話はしてあったので、最下層の話も伝えた。
「そんな事が……すでにそれだけ、大量の犠牲が出ているという訳ですね」
王国の東、共和国の北には東の帝国があった。
評議国と王国、共和国と海に囲まれた独裁軍事国家だった。
西と違う点として、こちらは皇帝を名乗っていた。
「協力しても構いませんが、幾つか条件があります」
少しは面倒くさそうな顔を見せるかと期待したが、そんな事もなく、エミールは当たり前のような顔で眉一つ動かさず答える。
「何でも仰って下さい。出来る限りの事はしますよ。先に、こちらから待遇を話させて下さい。一度王都へ一緒に行って貰います。そこで依頼しますが、住む場所は王宮近くに用意しますし、身分もそれなりのものを用意します。その他、金も含めて必要な物は出来る限り用意します」
待遇が良すぎて怪しい。
男を利用するのは、今考えた筈だ。
やはりエミールは、若いがクセ者で油断できない相手だ。
傭兵は基本使い捨てだ。
そうでない場合は裏がある。
男を取り込んで、他の貴族の暗殺でもさせるつもりか。
その後は情報が洩れないように、仕事の後に始末するつもりだろう。
傭兵に条件のいい仕事はありえない。
あるとすれば報酬を払う気がない場合だけだ。
「郊外の静かな場所に、小さな家を用意して下さい。リトだけ連れていきます。
手柄になるような依頼の場合は、誰か手柄だけ手にする人間を用意して下さい。
私達の事は他言無用です。他人に知られないようにして下さい」
「目立ちたくない。という事ですか?」
「その通りです。その方が都合がいいんじゃありませんか? 王族の誰か、ギリギリで
「はっはっはっは。参りました。それでいきましょう」
目が笑ってない。
どこまで企んでいるのか、危ない貴族だ。
「それと、もう一つ。仕事の後で、暗殺しようとしないで下さい。面倒なので」
「分かりました。しかし、貴方をどうにか出来る駒はありませんよ」
「この町で数日お待ち下さい。このミハイルを置いていきますので」
「わかりました。待ってますよ」
エミールが他の仕事と、情報収集を済ませるまで待機になった。
「そうだ、ミハイルは子爵家ですが三男なので、幼い頃から剣に励んできました。お疲れでなければ、少し見てやって貰えませんか?」
「……構いませんよ」
裏庭に出るとミハイルが、木刀を持ってきた。
「こんな物でも大丈夫でしょうか」
片方を受け取り片手で握ると、左足を引き半身に構える。
「どうぞ。打ち込んで下さい」
「お願いします」
両手に木刀を握ると、ミハイルは一気に距離を詰め、男の木刀を打ち払う。
その木刀が男の右側から腰に振られる。
男はそのまま前に出て、ミハイルの右脇を駆け抜ける。
ミハイルの脇腹、白い鎧が甲高い音を響かせる。
脇を抜けながら男の木刀が鎧を叩いた。
「おお。お見事です。参りました」
邪気のない素直な笑顔でミハイルが頭を下げる。
「やはり相手にもなりませんか。王都では、そこそこの腕なのですが」
かなりの腕だった。
正統派のまっすぐな剣だと、一振りで理解できる程に。
「素直すぎですかね。実戦を積めば、相当な剣士になれますよ」
男も正直に褒めた。
数日なら、この少年の剣の相手をして過ごすのもいいだろう。
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