第二章 人の業

第47話 再会

 上位悪魔グレーターデーモンにグレートソードを突き刺した処で記憶が途切れる。

 健太はアスファルトに立っていた。

「あ? ……道路だ……うぉ! 帰って来たのか!」

 失っていた名前以外の記憶が戻って来る。

「そうだ! 組長おやじ!」

 健太は走り出す。

 帰る場所、本来自分のいるべき場所へ。


「帰って来たんだ……そうか。みんな、待ってて。すぐ会いにいくよ」

 ヒロも還って来た。

 他のメンバーも帰っているはず。

 山城以外は住所も聞いている。

 すぐに会いにいける筈だった。

「昔の住所は聞いているんだ。そこにいるかもしれない」

 絶対に見つけるんだと、早速会いに向かう。

 駅前の大きな画面に、全裸の男が逮捕されたとニュースが流れていた。


 異世界の物は一切持ち帰れない。

 全て向こうへ残ってしまう。

 国の管理はこの為でもあった。

 金も装備も、全てが置き去りにされるので、全て国の物にできた。

 殆どの人には異世界に召喚される前の服がサービスされていた。

 何故か恵はそのままだったので、還った直後に六本木ヒルズで勾留された。

 TVに流れるニュースに、アナウンサーが映っていた。

「……なお全裸の男は『違うんだ』などと意味不明な事を叫んでいるそうです。この男は以前にも同様の騒ぎを起こしており………」


 迷宮を抜けてから3日。

 何もない大草原をひたすら歩いた。

 どうせ何かくれるなら、魔法とか貰っておけばよかったかと考えていた。

 貰ったのは会話が出来る力だけ。

 まぁ便利ではあるが、リトが日本語も話せるので要らないかもしれない。

 たまに、岩場があるくらいで、ほぼ何もかわらない大草原だった。

 他の日本人と違い、男とリトの装備はそのまま残っていた。

 武器もリトが拾い集めて来たので残っている。

 おかげで、なんとか生き残れていた。

 ゴブリンやコボルトなどの亜人、狼や熊のような魔獣と出会うくらいだった。

 道もない草原を歩いているからか、人にはまったく会わなかった。

 だが、昼過ぎに建物が見えて来る。

 町があるようだ。


 コボルトは犬っぽい亜人ですが、人と暮らす者もいたりします。

 家事が得意だという噂もあったりします。

 基本は鉱山のような山の中の穴に住んでいます。

 何よりも、他の亜人にはない特殊能力があります。

 きんをコバルトに変えることができるそうです。

 しかし現代ならばまだしも、中世以前の文明では何の価値もありません。

 価値ある金を無価値な鉱石に変える魔物として嫌われていたようです。


 この世界は現代の日本と違い、どこにでも人が住んでいる訳ではなかった。

 町と町の間には人の住んでいない地域があった。

 そんな世界で、初めての町を見つけた男とリトは、警戒しながらも町へ向かう。

 高さ2M程の木の柵に囲まれた町で、出入り口は二つあり、衛兵が立っていた。

「リト。この町知ってるか?」

「うぃ。奴隷商に連れられて来た事がある。もう少しいくと城のある王都。」

「そこにも行ってみるか。クナミィスってやつも悪くないかもな」

 日雇いの派遣みたいな職業がクナミィスと呼ばれていた。

 所謂いわゆる冒険者みたいな仕事だ。


「何者でもないが、町に入れるのかな」

 日本ではないうえ、怪物モンスターのいる世界だ。

 町の警備も厳しいだろう。

 門に近づくと槍を持った衛兵が声をかけてきた。

 いきなり戦闘にはならなそうだ。

「旅人かな? 身分証か紹介状はあるかい?」

「証明できる物はありません。入れませんか?」

「何もないと通行税を払ってもらう事になるな」

 この国の物価が分からないが、幾らかは持っている。


「幾らですか?」

「中銅貨4枚だね」

 嫌がらせか個人的な小遣い稼ぎかとも思ったが、まともな衛兵だったようだ。

 男は二人分の大銅貨一枚をだした。

 日本円で約640円だ。

「あ、そっちの子は奴隷だね。奴隷は非課税だよ。そのままどうぞ」

 衛兵は中銅貨4枚のお釣りをくれた。

「…………どうも」

 ファンタジーの衛兵は、もっと嫌な奴が立っているもんじゃないのか?

 と、男は少し不満に思ったが、大人しく町に入る。


 街中は石畳が敷かれていた。

 ヨーロッパの雰囲気に似た街並みで、フランスの下町のようで、どこか懐かしい。

 若い頃フランスの部隊に居た事を思い出す。

 何人が生き残っているのだろうか。

 そういえば日本人も一人いたのを思い出す。

 二人だけの日本人だったが、仲は悪かった。

 名前も思い出せないが、生きているだろうか。

 もしかしたら、あの迷宮に居たかもしれない。


 などと、くだらない事を考えながら町を歩く。

 かなりの人が歩いていて、馬車も通っている。

 これがこの国で、どの程度の町なのかわからないが。

「先ずは何か食べるか」

「にく。マスター。にく」

 はしゃぐリトを連れて、食堂だか酒場だかに入った。

 中央の大通りには、かなりの数の店が並んでいるようだ。

 余り出入りはないので、小売店ではないのかもしれない。

 しかし、分かり易い看板等はないので、何の店か分かり辛い。

 慣れれば何か違いが分かるのかも知れないが。


 入った店は昼飯時なのか、かなり混んでいた。

「どうするかな。外で何か食べるか」

「え……日本語?」

 男が、うっかり日本語でリトに話しかけると、それを聴いて若い男が反応した。


 護衛だろうか、剣士を一人連れた若い貴族が、驚いた顔で男に寄ってくる。

 剣士は見た事のない白い金属の鎧を着ている。

 短いサラッとした金髪で、まだ幼くも見える整った顔をしている。

 髪を伸ばしてドレスでも着たら、女性にしか見えないだろう。

 細身で、着やせするのだろう。

 近付いて来る動きだけでも、鍛えた筋肉がついているのがわかる。

 若く見えるが、相当鍛錬を積んだ剣士のようだ。

「おお。こんな所でお会いできるとは」

「見つかってしまいましたか。内緒にして貰えると助かります」

「ここでは何です。ちょっと静かな場所へ付き合って貰えませんか」

「……わかりました。立場上みなかった事にもできないでしょう」

 男は大人しくついていく事にした。

 まさかこんな街中で、上級貴族に出会うとは思わなかった。

 迷宮の管理を担当していたエミール・ナザル・クロカンド侯爵マークィスだった。



注) 作者挨拶

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 これからは人相手も増える、第二章となります。

 気分が悪くなったら、適度に休憩を挟んで、頑張ってくださいませ。


 良かった。悪かった。

 ひとことだけでも、コメントもいただけますと幸いです。

 お気軽に感想の一言だけでも、お願い致します。

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