第39話 光の翼

「なんか新人と面白い事してたんだって? 聞いたよ~」

 酒場に戻ってきた充が、カウンターでリトを連れた男を見つけた。

「特に面白くはありませんでしたが」

 エビとアボカドのトマトクリームパスタを巻き巻き、答える。

 今日のパスタはリングイネのようだ。

 大トカゲのしっぽシチューとサラダ付だった。

「そういえば、おじさんは政治家が嫌いだって言ってたっけ」

「うるさい演説がね。意味もないのに」

「票集めなんじゃないの?」

「そんな事ありませんよ。地方の市議会や区議会の議員なんて、金でなるものですから。そういう仕事があるんですよ。票を集める仕事がね。そもそも家で選挙カーを煩いと思っている人は、選挙にいきませんから。無駄に煩いだけですね」

「お金で人を集めるって事?」

「なんだ。充は知らなかったのか」


 二人の話に健太が混ざってきた。

「え。健太さんも知ってるの」

「ん~……そうだな。例えば、ある会社の社長に金を渡すんだよ。300万だとか500万だとかな。それで社長が社員に、親戚や友人知人を連れて選挙に行かせるんだよ。それを普段繋がりのある地元の会社、何社か廻れば結構な組織票になるんだ」

 健太が何も知らない充に教えてやる。

「その社長が金だけ貰ってたり、社員が行かなかったりしないの?」

 充が健太に問いかけると笑って答えてくれた。

「それができる社長と仕事をする訳だな。そこで人を動かす方が得だと、社長に思わせられる人間が仲介業者になれる訳だ。信頼と実績がある人間の仕事だな」

「へぇ~。おじさんはなんで、そんな事知ってるのさ」

「実家がそんな仕事をしている事務所だったからですね。そんな依頼で当選した市議会議員が何十人かいますよ」

 男はつまらなそうに答える。

「うちのオヤジにも、そこから依頼があったかもな。何度か選挙に行かされた事があるぜ。そうだなぁ。やっぱり政治家なんて腐ってるな」

「まぁ、本人は知らなかったりしますがね。金で票を集めているのを知らずに頑張って演説してるのって、バカみたいですねぇ」


 依頼をしてくれた後援の方々、当選した議員の方々。

 名前は絶対に洩らさないので、殺さないで下さい。

 演説が煩いだけなのは本気ですがネタです。もう時効ですよ。


「アニキ。そろそろ行くっスよ」

 呼びに来た潤に連れられて、健太は迷宮に向かう。

 危険な下層には行かず、浅い階で新人を襲って楽しんでいる輩がいると、最近問題になっているので、クジ引きに負けた健太組が転送陣を使わずに降りる事になった。

「一階か二階だろうな。いるのなら」

「そっスね。新人を遊びで襲ってるくらいっスから、そのくらいでしょうね」

 面倒くさそうな健太に潤が答える。

「まぁ、遊びで狩られる程度の新人なら、どうせすぐ死ぬんじゃないのか?」

「だろうけど。クジで決まったから仕方ないっスね」

 グズっていた三浦もやる気がなさそうだが、潤も答えながら帰りたそうだ。


 健太組が二階に降りてすぐ、噂の一団を見つけた。

 4人の男達が二人の男女を囲み、いたぶっていた。

 襲われている二人の仲間か、奥に4人ほど倒れている。

「おいおい。おまえら、面倒かけるなよ」

 健太が声を掛けると、ナイフを持った男達が遊びをやめて寄ってくる。

「なんだぁ? なんか文句でもあんのかぁ? あぁ?」

 下層へ行く者は皆、転送陣を使うと思い込んでいる4人組は、相手が健太組だと思ってもいないようで、新しいおもちゃが来たくらいに考えていた。

「面倒くせぇ。潤……片付けろ」

「うっス」

 大きなバックパックを降ろした荷物持ちの潤が、一人前に進み出る。

「はぁああ? なんだお前ぇ。斬り刻んでやろうかぁ」

 前に出て来た男の両襟に手を掛けた潤は、膝をたたみ体重を相手の首にかける。

 いきなりぶら下がられ、よろけて頭を下げたところへ、潤の足が強く地を蹴る。

 一気に膝が伸ばされ、勢いよく潤の頭が相手の顔に突き刺さる。

「ぷぎょっ……」

 奇妙な声を漏らし、ナイフを持った男が崩れ落ちる。

「て、てめぇ!」 「やりやがったな」

 仲間をやられた二人が、ナイフを振り回しながら潤に襲いかかる。

 横薙ぎに降られるナイフに怯みもせず、大きく踏み込んだ潤のジャブが左の男の鼻を潰し、動きを止める。

 右側の男に前蹴ケンカキックりを腹に入れ、その襟を掴むと顔の形が変わる程拳こぶしを打ち込み、とどめのアッパーで殴り飛ばす。

 牽制のジャブで鼻血を噴き出し、屈んでいた左側の男に近づくと喉を掴んで、無理矢理上を向かせると、そこへ頭を叩き込む。

 ぶちゅっ。と嫌な音がして、潤の額が顔にめり込む。

「ひっ、ひぃ……」

 すっかり戦意を失った最後の一人は、腰が抜けたのか床に尻をつけ泣き出す。

 潤はその顔を踏みつけた。

「ぎゃふっ、や、やめっ! ぶっ……ぁ……」

 動かなくなるまで踏みつけた潤は健太の元に戻る。

「こんなもんっスかね。他にはいないと思うっスけど、一応見て廻りますか」

「そうだな。4階の転送陣で帰るか」

「レッドキャップに会わないといいっスね」

 唖然呆然と立ち尽くす襲われていた二人を放置して、健太組は見回りを続けた。


 土竜に発見された地下12階の調査に光の翼が手を付けた。

 12階も暗い洞窟のような通路が続いている。

 床は石ではなく、土のようだ。

 人数が多いので、酸欠が心配な程の灯りで、暗さは気にならない。

 そんな灯りの中に猛獣が姿を現す。

 ライオンのような姿だが、後ろ半身は虫のようで後ろ足も虫っぽい。

しずく。出番だ」

 サブリーダーのめぐみに、雫と呼ばれた少女が怪物モンスターを見る。

 雫のギフトが相手の名前を告げる。

「ミルメコレオ。特殊な力はありません」

浩介こうすけ

 雫の報告に恵が、脇の青年に声をかける。

「後ろ足はたぶんアリです。父親がライオンで母親がアリの化物ですが大型の猛獣だと思って構わない筈です」


 ミルメコレオは産まれてすぐに死ぬそうです。

 昔、アリは草食だと考えられていました。

 頭が肉食のライオンなので肉しか食べられないのに、体がアリなので消化できずに死んでしまうと考えられていました。

 しかし、アリは雑食でなんでも食べます。

 それが知れ渡ると、別の話ができました。

 アリの巣で孵ったミルメコレオは土に埋まって、地上にでられず死んでしまうと。

 何が何でも、産まれてすぐに死ぬ。それだけの可哀想なモンスターです。

 アリの体に頭部だけライオンという説もあります。

 迷宮では死なずに地上へ出られたようです。


「戦闘隊長、ひとし任せるぞ」

「おう。いくぞ!」

 そのギフトで戦闘に参加できないリーダーの女性、巫女みこを5人の近衛隊このえたいが護る。

 最悪の場合、ギフトで攻撃対象を自分にする為、パンツ一枚の恵も傍にいる。

 6人の戦闘部隊3つを指揮して戦うのが、戦闘隊長の仁だ。

 戦闘向きでない者6人が荷物を持って、周囲の警戒をする。

 ギフト持ち5人を含む、総勢32名の大所帯が光の翼だ。

 6人パーティーが両側から攻め立て、正面から仁が槍で攻める。

 攻撃系ギフトは仁の燃える槍だけだが、12人の戦闘部隊もかなり強い。

 一人一人が3人分くらいの強さを持っているかのようだ。

 大勢で囲み、無理をせず、小さな傷で弱らせていく。

 安全第一が信条のチームだった。

 猛獣並みのミルメコレオも、何も出来ずとどめの槍を受けて沈んだ。


 徘徊するモンスターの特徴と名前を調べ、地上に帰り情報の公開、共有をするのが光の翼の役目だった。

 多くの荷物を持てるギフトの輸送部隊長、やすしが戦闘向きでない5人をまとめ、囮になれる恵が近衛隊をまとめる。

 指揮とチームワークで生き残ってきた古参で、お笑いグループではなかった。

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