第35話 アンデッド

「ふはははははっ。王の御前である。ひざまずいて血を捧げよ」

 高笑いしながら、無造作に腕を振り回す。

「ぐぉっ」

 楯で受けた三浦の巨体が、おもちゃのように吹っ飛んだ。

 三浦は壁に叩きつけられるが、すぐに立ち上がる。

「流石プロレスラーだ。頑丈だな」

「だが、これでは壁役にもなれないな」

 声を掛ける健太に、まだ大丈夫だと三浦が答える。

 技も何もなく、ただ力任せに腕を振るだけで、2M近い大男が抗しきれない。

「あいつ120Kgとかなかったっスか? 飛んでったけど……」

「ならば攻撃しかないでしょう」

 たちばなが新しく買った剣を抜いて前に出る。

 怪しげな光を放つ刀身は、赤黒く不気味に見えた。


 男が振り上げた野太刀が、ワイバーンの腹を切り裂いた。

 しかし、怯みもせず前へ出て男に襲い掛かる。

 噛みつきに来た頭を避け、伸び切った首に太刀を振り下ろす。

 ガキン。と、刀がはじかれる。

「ちっ……無理か」

 腐りかけた部分は斬れるが、鱗が残った部分は硬いままだった。

 腰を据えて振れば斬れそうだが、攻撃を躱し腰がひけた状態では無理そうだ。

 ゾンビになったからか、動きは速くない事だけが救いか。

 牙を躱した処へ左手の爪が繰り出される。

 それを屈んですり抜け、伸び上がるように太刀を斬り上げる。

 ワイバーンの翼が大きく切り裂かれるが、また怯みもせず太い尻尾を振り回す。

 ついうっかり、しっぽがあるのを忘れていた。

 回避が間に合わず、仕方なく太腿を当てた太刀の腹で受ける。

 当然男は枯れ葉のように飛んでいく。


 暗殺者の赤い剣が、吸血鬼の左腕を肘から切り落とした。

「ぬぅ!」

「後は……たの……む……」

 脇腹を切り裂かれながら繰り出した、決死の一撃だった。

 橘は血を振りまき、壁際までよろけ、崩れるように倒れた。

 手当をしようとじゅんが駆け寄る。

「人間如きが、やってくれたな。はらわたを引きずり出し血をすすってやる」

 強力な魔法の武器だったようで、吸血鬼の傷はふさがらない。

「化物の分際でやりやがったな。てめぇのハラワタをぶちまけてやるよ!」

 仲間をやられ、健太が吠える。


 着地からゴロゴロと2回転、転がった男は地を蹴り跳ね上がるように突進する。

 手放していなかった野太刀を脇構えに走る。

「いっ……てぇなコラぁ!」

 しっぽで叩かれ転がった男は、ちょっと切れ気味のようだった。

 一閃

 ワイバーンの右の脇腹を怒りの野太刀が切り裂いた。

 中身がボトボト溢れ出し、支えられなくなった上半身が左へ傾いていく。

 やられたらやり返す。

 男は止まらずに、振りかぶった太刀を尻尾に叩きつける。

 太い丸太のような尻尾が、ロールケーキのように切り落とされた。


 三浦が前に出て、吸血鬼の右腕を受け止める。

 楯ごと弾き飛ばされるが、その体を飛び越えとしが襲い掛かる。

 右足を大きく振る、飛び右前回し蹴りが吸血鬼の頭上をかすめる。

 足を伸ばしたまま勢いをつけ、左の後ろ回し蹴りが吸血鬼の顔に突き刺さる。

 飛び二段回し蹴りと同時に、健太が魔法のサーベルを腰に構え突っ込む。

「っじゃぁ、コラぁ!死ねやぁ!」


「クゥォォオオオオオ!」

 上半身の重みで腹がちぎれ、背骨も折れる。

 そんな状態になってもゾンビは死ねず、胸を締め付けるような声で啼く。

 意識があるのか本能なのか、天井に向かって吠えるゾンビの首を切り落とす。

 落ちた頭も斬り割ると、ようやく動きを止めた。

 天に吠えたのは、空へ帰りたかったからなのか。

 飛竜は地下墓地の奥で二度目の死を迎えた。

 そこへ上から何かが振って来た。


 ドォン。と凄い音がしたが、砂煙の中に立ち上がる人影があった。

「いててて。やりすぎたか」

「そちらも片付いたようですね」

 吸血鬼に突進した健太だったが、勢い余って柵を乗り越えて落ちてしまった。

 魔法の剣は倒れる吸血鬼の胸に突き立ち、心臓を貫いていた。

「おぅ。そっちも終わったか。相変わらずとんでもねぇな」

「なんとか生きているってところです。それよりも……」

 男が奥の扉を見る。

「ああ。あの奥に何かがあるんだろうな。潤! どうだ!」

 上で橘の手当をしている潤に声をかける。

「大丈夫っス! 生きてますよ。軽い傷ではないっスけど」


「リト。おいで」

「うぃ」

 健太と男は地下墓地最奥の扉を開く。

 そこには……

「そういう事ですか」

「あの野郎……」

 下へ降りる階段があった。

 迷宮ダンジョンの最下層ではなく、地下10階、地下墓地の最奥だった。


「ちっ……なら俺達は一度戻るぞ。仲間の治療がある」

「こっちも戻ります。もう余力がありません」

 一気に力が抜けた二人は地上へ戻っていった。


 次回予告


 昔々ギリシャのお話。

 巨神族タイタンとの戦争に勝利したゼウス達はオリンポス山に住み地上を支配しました。

 巨神族の血を引くという巨人達は、ゼウスが嫌いでした。

 巨人はギガースと呼ばれていました。

 その一族はギガンテスといいます。

 一人ならギガースで、複数形がギガンテスになります。

 ある日、巨人族ギガンテスがオリンポスに攻め込みます。

 全知全能の神ゼウスはすぐに行動します。

 鳩に変化へんげすると、山から逃げ出しました。

 動物に化けて、人間の女性を襲うくらいしかできない神ですから。

 冥府の王ハーデスや海神ポセイドンのような、お兄ちゃん達とは違うのです。

 しかし賢い女神アテナは、巨人に特効ダメージの落雷を呼ぶいかづちの杖を創ります。

 勝てそうになると帰ってきたゼウスは、杖の力で巨人達を倒します。

 山の上から道具の力で雷を落として勝ちます。

「ふぁふぁふぁふぁ。巨人がゴミのようだ!」

 娘の力で調子に乗り、山の上から見下ろし高笑いする主神でした。

 それも自分の力として雷の神にもなります。

 巨人族ギガンテスは、地面に足が着いていないと力が出ません。

 足の届かない深い井戸に鎖で繋がれ、浮いたまま復讐の時を待っているそうです。

 そんな巨人の末裔といわれる怪物モンスター、ジャイアントが人の世にも現れます。

 大人しい者もいますが、ほとんどは短気で怪力で知能は低いようです。

 女性は少ないのか、男性の目撃例ばかりのようです。

 ばばさんや、あんどれさんは名に巨人ジャイアントと入りますが巨人族ギガンテスではありません。

 少なくとも、ばばさんの元同級生の証言では、違うそうです。


 ギガンテスはギリシャですが、北欧にも巨人はいます。

 原初の巨人ユミルの一族です。

 その子ヨトゥン達は、ユミルが殺された時の洪水で一度絶滅しかけます。

 ですが、生き残った一組からまた増えます。

 ユミルは個体名ですがヨトゥンは種族名になります。

 そのヨトゥンの子孫とされているのが霜巨人フロストジャイアントです。

 彼らは現在スカンジナビア半島に住んでいるそうです。

 スカンジナビア山脈にあるというヨトゥンヘイムというところにいるそうです。

 ヨトゥンヘイムは巨人の郷という感じでしょうか。

 お近くにお寄りの際は、会いに行ってみては如何でしょうか。

 霜巨人の他に、山巨人も一緒にいるそうです。

 別の場所には火の巨人もいるそうです。

 山巨人は温厚ですが、霜巨人は友好的ではないそうです。

 冷気をまとっているとも言われますが、寒い所に住んでいるだけだったりもします。

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