第34話 夜魔の王

「お久りぶりです」

「おお、アンタか。こんなトコまで一人で来るとはな」

 地下10階

 リトを連れ、噂の地下墓地へ来た男は健太組に出会った。

「ゾンビの群れはどうにかなるだろうが、レイスってのは面倒だな」

「幽霊みたいなのらしいですね」

「何か対抗手段は用意したのかい?」

「三つ……あるにはありますが……確実ではありません」

「まぁ試してみないとな。銀に弱いとか、火に弱いとかあるといいな」

 男は腰の魔法の短剣を抜いてみせる。

「これなら霊体にも効果があるそうです。小林さんが言ってました」

「あの人が言うのなら信用してもいいんじゃないか?」

「実際に試してはいないそうです」

「ん~、どうだろうなぁ。試すのも命懸けだしな。他のは?」

 健太も対抗手段には興味があるようだ。

「コレです」

 腰の脇差を指す。

「それ、何か特別な武器だったのか」

「鍛冶屋で作って貰った物ですが、鍛鉄たんてつ、鍛えた鉄には魔を払う力があると言われ、神社にも奉納されていたくらいですから。魂の籠った日本刀なら、霊体だろうが斬れるはずです」

「気がするって程度だな。最後のも危なそうだが」

「最後のは、武器が効かなかった時の滑り止めですね。これだけは自信があります」

「ほぉ。それは是非聞かせて貰いたいな」

 健太も少し身を乗り出す。

 男はこぶしを握ってみせる。

「これです。死霊だか悪霊だか、結局は体を失った残りカスでしょう。こちらに干渉できるのならば、こちらも殴れない訳がありません。後は気合ですね」

「うん……そうだな。うちらは、魔法の武器って奴を買ってきたよ」

 少し期待していた健太は、哀しそうな顔をしている。


 墓石が目に付くようになった頃、脇道も増えてきた。

「俺達はコッチへ行ってみるよ。下への階段でまた会うかもな」

「お気をつけて」

 健太組を見送って、男は別の道を行く。

「マスター。ここも、索敵が効かないかも。生き物じゃないと、分かり辛い」

「まぁ、アンデッドってのはそんなもんだよ」

 居るのがはっきりと分かっていたら、台無しな気がする。


 暫くゾンビを殴り倒しながら進むと、うっすら白っぽい人影に出会った。

「おっ。レイスってやつか」

 何故か、男は少し楽しそうだ。

「先ずはこれで確認だな」

 胸のダークを抜き、投げつける。

 ナイフはレイスをすり抜け、闇の中へ飛んでいった。

「物理攻撃は効かないようだな。次だ」

 腰の魔法の短剣を抜いて構える。

 レイスの動きは不規則だが、それ程速くはない。

 伸ばしてきた手を斬りつける。

「ひぃぃいいいいぁああ」

 不気味な叫びをあげ、レイスが怯んだ。

「おお。流石は小林さん。よし、次だ」

 短剣を作った訳でもなく、小林は拾っただけだが。

 男は嬉しそうに脇差を抜く。

 確かに日本刀は妖怪やら鬼やら幽霊やら、斬った話は多い武器ではある。

 金太郎も参加した鬼退治、酒呑童子を斬った太刀は国宝になっているし。


 現在皇室の物で、国立博物館に死蔵されている国宝、童子斬り安綱は髭切の太刀とも言われる、天下五剣の一振りとして実在する刀です。

 鬼を斬って国宝になっているので、確実に鬼は斬れるという事になります。

 鬼の存在を国が認めた事になるのではないでしょうか。

 公開の義務がある国宝ですが、現在は展示されていません。

 流石に史上5本の指に入る、とされるだけあって美しい刀です。

 みんなで要望を出して再度展示して貰い、見に行きましょう。


 入道興里に似た脇差がレイスを切り裂く。

「きぃやぁああああ」

 流石は日本刀。効果ありそうだ。

 魔法の短剣より痛がっているような気さえする。

「これでとどめだ」

 大きく踏み込んだ男の拳がレイスを貫く。

 必殺の中段正拳突きが、レイスの半透明な体をすり抜けた。

「やべっ」

 思い切り行ってしまって、体が流れてしまう。

 勢いが止まらないので仕方なく、そのまま体ごと向こう側へ駆け抜けた。

「やばかった。今のはやばかった」

 本気で焦ったようで、額に変な冷たい汗が噴き出てくる。

 霊体に効果のある武器さえあれば、レイスはそれほど脅威でもなかった。

 触られたらマズイらしいが、一対一で戦えればどうにかなりそうだ。


 出て来るのはゾンビのような、動く死体だらけだった。

 ワラワラと集まってくるので、かなりうざったい。

 腐りかけてるので汚いし、臭いし。

 そんな死体をかき分ける様に進むと、ひらけた場所に出た。

 コロシアムの様な広場で、高く造られた観客席が周りを囲んでいた。

「ようこそ我が墓地へ。此処が最奥です。歓迎しますよ」

 他の観客席とは違う造りの貴賓席だろうか、人が立っていた。

「最奥? 此処が終着点なのか」

 ここが最下層だったのか。


「へぇ。これで皆帰れるってわけか」

 健太が青白くぼんやりと光るサーベルを持ち、闘技場へ入って来た。

 あれが魔法の武器だろうか。

「ここは王の為の闘技場。この不死の王を楽しませなさい」

 大きな門が開き、大きなドラゴンが入って来た。

 小さな二階建てのアパートくらいありそうだ。

 暴れるアパートを、剣一本で解体するような無茶な話だ。

「でっか……ドラゴンとか無理だろうよ」

 健太組の巨漢、三浦が唖然と見上げる。

「ふははははっ。拾った死体を蘇らせた、ワイバーンゾンビです」

 観覧席から楽し気な声が聞こえて来る。

 ドラゴンではなかったようだ。

「拾ったのかよ……しかし、あいつ」

 健太がリトを連れた男を見る。

「不死の王を名乗るなら恐らく、吸血鬼でしょうね」

「だろうな。どっちがいい?」


 ワイバーン

 古くから紋章や印章などに使われ、人気だったドラゴンから分かれたようです。

 5千年だとか6千年とも言われる古い歴史の中で、いつしかドラゴンとは別になっていったようです。

 前足が翼になっているものが、ワイバーンといわれるようになったそうです。

 尻尾に毒針を持つもの、炎を吐くもの、火球を吐くもの等、多種いるようです。

 飛竜とも言われ、飛ぶのが速いとされています。

 wyvernなのでカナ表記するならヴァーンですが、読みにくいのでバにしてます。


 ヴァンパイア

 吸血鬼ドラキュラで有名ですね。

 血を吸う魔物という存在は、世界中に伝承が残っているようです。

 小説、映画で有名になったヴァンパイアだけでも、設定は多く弱点も盛沢山です。

 陽の光りで灰になる。胸を木の杭で貫く。聖水、十字架で焼かれる。流れる水に入れない。変わった弱点だと、招待されないと他人の家に入れない……等々。

 弱点てんこ盛りですが、木の杭を抜くと動き出します。

 灰になっても灰から蝙蝠が飛び立ち、一週間休むと復活するそうです。

 アンデッドなのに傷が回復するそうで、銀製品でないと倒せないとか。

 まさに不死アンデッド。死を否定するものです。

 強靭な肉体と人を魅了して操る能力を持ち、血を吸って眷属を増やします。

 蝙蝠や狼や霧に姿を変えたり、作品に寄っては魔法も使います。

 夜の王、不死の王と呼ばれる最高峰のアンデッドです。


 サーベル

 昔の軍人やおまわりさんが携帯していた、警棒代わりの武器です。

 日本で使われていた物は、機械で量産されたステンレス製のものでした。

 切れ味と耐久性に優れた片手剣です。

 少し前の警官は無茶な人が多く、特に白バイは頭おかしい人が多くいました。

 バイクで走行中、警棒で後ろから頭を殴られた友人もいます。

 しかし、殴る警官はいても、斬る警官はいなかったと思います。

 サーベルが廃止になってよかったですね。


「どちらも面倒なので任せたい処ですが、こっちにしましょう」

 男はワイバーンゾンビを選んだ。

「てっきりヴァンパイアへ行くと思ってたんだが……いいのかい」

「どうせ普通の武器では効かないでしょうから。ナイフだけでやりたくありません」

「じゃ、アレを止めといてくれ」

 男にゾンビを任せた健太組は、壁を乗り越えてヴァンパイアへ向かう。

「はぁ、器用に登るもんですね。さて、どうやったら殺せるんでしょう」


 動けなくなるまで斬り刻む事に決めた男は、黙って後ろへ手を伸ばす。

 野太刀が握られ、抜刀される。

「クゥ…ォオオオオオ」

 ワイバーンが哀しそうな苦しそうな、呻くような叫び声をあげる。

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