第24話 共闘

「申し訳ありませんが、地上に戻って戴きます」

 やっと健太組に追いついた。

 7階攻略の支度をしている5人に声を掛ける。

「おいおい……一人で降りてきたのかよ」

 健太が呆れ顔で答える。

「エミールさんから聞いていますね? 入り口に殺到してます」

 話を聞いていた健太も、すぐに理解したようだった。

「マジで来たのか。油断してたな。間に合うか?」

「無理っスよ兄貴。4階までだって大分ありますよ?」

 チンピラ風の男、じゅんが健太に答える。

「おっさんみたいに、走って行くわけにもいかないしな」

 やたらと大きな体の男、三浦みうらも間に合わないという。

「次の転送陣テレポーターを目指せば、あるいは……賭けですが……」

 細身の男、たちばなが先へ進もうと言い出す。

 眉一つ動かさずに、人を殺しそうな雰囲気の男だ。

「この先に次があるのですか?」

 健太に男が訊ねる。

「今までのパターンだとな。8階に転送陣がある可能性は高いらしいが……」

 健太の様子からすると、誰かが確認した訳ではなさそうだ。

 何か格闘技でもやっていそうな体格の良い男、としが教えてくれる。

「過去のデータって奴でな。最下層は8~10階くらいが多いらしいんだ。でも、地下11階以降まである時は、8階に転送陣がある事が多いらしい。まぁ最下層まで行ったら、皆消えるから実際の最下層が何階だったか分からないが」

 あるかどうか分からないが、この階を駆け抜けるだけで済むかもしれない。

「行ってみますか。運が良ければ此処か8階が、最下層の可能性もありますから」


 健太組が階段の位置は分かっている事もあり、戻るよりも進む方に決まった。

「そういや、一度訊ねてみたかった事があるんだが。アンタ向こうの世界の最新の記憶って、何年くらい前になるか分かるかい?」

 歩き出した健太が、男に不思議な質問を投げてくる。

「記憶が消えている所為で、今何歳なのかすら思い出せませんからねぇ。20年くらいでしょうか。自信はありませんが」

「そうか……記憶を失くした二十歳はたち前の小僧もいるからな。失くした記憶は個人差が激しいのかもな。いや、すまねぇな。俺には……帰らなきゃいけないとこがあってよ。でも、飛んでる記憶があるからな……もうその場所はないのかも知れない。なんて考えちまってな」

 帰る場所も、守るべき人も、既に過去のものかもしれない。

 健太が記憶の欠けてる人間に、偶に訊ねている事だった。

「なるほど。まぁ、どちらにせよ、最下層を目指すしかありませんね。幸い向こうの大事な記憶はさっぱりないので、それほど帰りたいとも思いませんが」

「ちっ……おかしなことを話しちまったな。忘れてくれ」


「来る! 正面二体。右の一体も来るかも。……人型」

 リトが敵を感知する。

「獣人ってのはすげぇんだな。感覚が人以上だっていうしな」

 健太が感心しながらグレートソードを抜く。

 正面から来たのは人型の狼だった。


 人狼。ワーウルフ。ウェアウルフ。

 Werwolf(ドイツ語)

 Werewolf(英語)

 ギリシャのライカンスロープやフランスのルー・ガルーなど。

 いくつも呼び名があるのは世界中に居たからです。

 狼がいない地域では、虎だったり熊だったりしますが世界中にいました。

 何故か虎など、ネコ科は女性が多かったりしますが、狼男は男性だけです。

 狼女ならいるかもしれませんが、狼は当然男性です。

 ライカンスロープも、意味は狼男になるそうなので、男性のようです。

 起源がはっきりしない程、古くからあちこちにいたようです。

 面白味のない説だと、狂犬病患者からのイメージだという話もありますが。

 残っている記録で古い物はポーランドあたりの人狼でしょうか。

 記録はギリシャのものですが、今のポーランドの方に狼になる人がいたとか。

 人の姿で暮らし、獣の姿になって人を食べる魔物とされています。

 銀製の武器でないと倒せなかったり、月を見て獣になったりと、古い映画の設定が受け入れられ、定着したようです。

 変わったところだと、豹や狐などもいたりします。

 海獣はセイウチくらいでしょうか。

 元に戻れないのでセイウチ男は違うかもしれません。

 基本的に力強く狂暴で人を食べる敵とされています。

 魔女裁判の頃には、人狼も流行って吊るし上げられていたようです。

 この迷宮にいる人狼は狂暴ですが、銀製品でなくとも倒せます。


 俊と三浦が前に出て、それぞれ人狼を止める。

 橘が隙を見て仕留める係で、潤はアイテム係のようだ。

「こっちは任せな」

 健太は一人、右の脇道へ向かい大剣を構える。

 そこへ大きな人型の虎が飛び出してきた。

 健太は真っ向から剣を振り下ろし、ワータイガーを頭から切り裂く。

 どちらが怪物モンスターなのか、分からないような一撃だった。

「便利だな。ウチも潤の代わりに奴隷を買うか」

 健太は、敵が来るのを感知できるリトが、気に入ったようだ。

「アニキ、そんなぁ……俺の方が役に立つっスよぉ」

 情けない声を出し、潤がリトを睨みつける。

 対抗心を向けられても、リトはマスター以外に興味はなかった。


「この階はあんなのが多いな。鼠やネコ科のナニカとかな。後は低級の魔族だな」

 なるべく戦闘を避け、ワーラットを数体片付けるだけで、階段まで辿り着く。

「やっぱりまだ居たか……あのゴーレム、階段を守ってるのかずっといるんだ」

 大きな岩の塊が動き出す。

 高さは3M近くあるだろうか、人型の岩が動いている。

「ゴーレムにしちゃ随分と……しなやかに動きませんか?」

 男が違和感を口にする。

 特に関節のようなものが有る訳でもないのに、硬そうな体を曲げて動いている。

「マスター。アレ……魔族。たぶん」

「ロックデーモンってとこかな?」

 男は武器も抜かず前に出る。

「アレを討ち取りに来たのでしょうが、今回は諦めてください。時間がないので」

「でもよぉ倒さねぇと進めないだろ? アイツ硬くてな。矢も刺さらなかったぞ」

 やる気の健太が潤にゴーレム用の武器を準備させる。


「言ったでしょう。時間がないんです。トドメは任せますよ?」

「は? え……ちょ、何を……」

 剣では斬れない岩石の体に、男は無造作に近づく。

「斬れないのなら……殴ればいいだけのこと」

 近づく男に巨大な岩の拳が振り下ろされる。

 離れていても、風を切る音が聞こえそうな鋭い一撃だ。

 やはりゴーレムよりも大分速い。

 そんな岩の右腕を、前に出ながら頭を傾けて躱す。

 ザリザリと、顔が削られる音が聞こえそうな程、ギリギリで躱す。

 男が左足を大きく踏み出すと、岩の腕の下を這うように左の拳が走る。

 人ならば肝臓の辺りか、悶絶しそうな一撃が突き刺さる。

 大きな体がグラリと揺れ、効いたのか頭が少し下がる。

 その顎を右の掌底が突き上げると、続けて右足が腹へ突き刺さる。

「しっ!」

 前蹴りで前屈みに折れたところへ、体を投げ出し、横に傾け捻る。

 頭上から振り下ろされる左足が、岩の顔面を捉え踵が突き刺さる。

 胴回し回転蹴りで膝をついた岩の悪魔へ、健太が飛び込む。

 男が転がって離れると、すかさず健太が殴りかかった。

「砕け散れぇ……おらぁ!」

 健太のギフト一撃必殺が発動する。

 健太に素手で殴られたロックデーモンは、崩れ落ち動かなくなった。

「かってぇなオイ。手が砕けるわ」

「お見事です。これで先に進めますね」


「やっぱり……あのおっさんは頭おかしいな」

「ああ……健太さんの言ってた通りだ」

「アレに殴りかかろうって、発想がおかしいよな」

 見ていた俊と三浦が小声で呆れていた。


「さて、下はどうなってんのかね」

 健太が階段へ向かう。

「なんか……明るくないっスか?」

 階段の下がやけに明るい。

 だが、何故か、上の階には光が漏れてこない。

「気持ち悪ぃな。どうなってんだ?」

 グズグズしている暇もないので、転送陣があることを願い階段を降りていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る