第23話 駆け抜ける

「マスター。すぐ近く。6人……たぶん人間」

 人工的だった5階と違って、ゴツゴツとした岩肌の洞窟の様な通路になっていた。

 水場があるのか、かなりジメジメしている。

 地下6階に降りると、土竜はすぐに見つかった。

「おや、ソロで此処まで来るなんて。驚きました。トカゲ狩りですか?」

 近づく二人に気づいたヒロが、笑顔で話しかけて来る。

 落ち着いた様子からすると、異変は上層だけのようだ。

 翔悟は後ろで舌打ちしている。

 同じ階まで追いつかれたのが気に入らないようだ。

「そうだ。二人は初めてでしたね。たかしまさるです」

 壁役か、重装備の少年二人を男に紹介する。

「よろしく」 「よろしくです」

「どうも。ですが、それどころではありません。緊急事態です」

 光の翼のように、エミールから話はあったようだ。

 ヒロから笑顔が消え緊張する。

「まさか……エミールさんの話してたアレですか?」

「話は通っているのですね。入り口に溢れて来ています」

「本当に来たんですか。先日モンスターが溢れ出た迷宮の様に、ここも準備だけはしておこうと、エミールさん達と話し合っていたんです」

「今は光の翼と衛兵が抑えています。貴方達と健太くんを呼びに来ました」

「わかりました。彼らは先程8階を目指すと言って先に行きました。急げば階段付近で追いつけるでしょう。急ぎましょうか」

 ヒロが先に立ち、進もうとするのを男が止める。

「貴方達は戻って転送陣で地上へ向かって下さい。少しでも援軍が欲しいでしょうから。健太組は任せてください」

 その言葉にヒロは少し考え、仲間を見回すと頷き答える。

「任せます。この階は初めてでしょう。階段までの道を伝えます。みつる、頼む」

 充が説明役を引き受ける。

「この階層は大きな通路に幾つもの細い通路が繋がって出来てるんだ。大通りは曲がりくねってはいるけれど道なりに進めば階段まで行けるよ。でも細い道は複雑に絡み合ってるからあちこちからモンスターが襲ってくるよ。気を付けてね。この先の沼がリザードマンの巣になってるんだ。物凄い数だから近寄らないで。後は天井にスライムがいたりするかな。でも大通りにはリザードマンくらいしか出てこないよ」

 相変わらず興奮すると、ほぼ息継ぎ無しで話だす。

「わかりました。それと、リトに変な言葉を教えると前歯をぎますよ?」

「ひゅっ……よ、よかれと思って。もうしません。絶対に」

 おかしな日本語をリトに教えていた充は、口を押さえながら後退る。

「今はそれくらいで……5階はどうでした?」

 緊急事態だからと、ヒロが間に入る。

「今のところ異変は上層階だけのようです。入り口から見えたのはゴブリンとオークだけでした。4階5階も異常は見られませんね。まぁ拡がる可能性もありますが」

「氾濫のあった迷宮でも、調査の結果、1階と2階の一部のモンスターが溢れ出したようです。出て来た分を処理したら、収まったと聞きました」

 男の記憶だと、確か王国の騎士団と傭兵だかが、攻略してるとか聞いていた。

「範囲に限界があって、数か時間で効果が切れるのかもしれませんね」

「王国の調査団は黒い剣士が何かをして一部のモンスターを迷宮の外へ向かわせたんじゃないかって考えているみたい。入り口に溜まっている分を殲滅すれば収まる予定だからなんとか鉄格子を破られる前に片付けたいね」

 充が一気に情報を伝えると、モグラ達は五階に上がっていった。


 トカゲ男リザードマンは、二足歩行のトカゲのような姿で、ドラゴンや狼男、神話の怪物などと比べると、新しい怪物のようです。

 ある程度の知能があり、集団で暮らしている事が多いようです。

 独自の言語を持っていたり、武器を扱えたりもします。

 硬い鱗に覆われ、蜥蜴とかげなのに鋭い歯が生えています。

 トカゲというよりワニ人間のような感じでしょうか。

 アリゲーターとクロコダイルというのは、ワニの種類です。

 有名処だとカイマンはアリゲーターで、イリエワニなんかがクロコダイルです。

 クロコダイルダンディーが獲っているのもクロコダイルです。

 ガビルだかガビエルだかってのもいますが、絶滅しそうだし、クロコダイルの仲間にされたりするし、なのでワニは大きく分けてこの二種類になります。

 ワニだと何男なのか、種類で変わって面倒なので、トカゲ男のリザードマンになったのかもしれません。

 作品によっては、頭が良く会話もできる双頭のカラコルムや、竜種と言われるドラゴニュート等、見た目が似ているモンスターもいます。


 ぶよぶよとした不定形の魔物がスライムです。

 古くからいるゾル状だったり、ゲル状だったりするナニカですが、纏めてスライムとした作品はTTRPGのD&D(頭文字だけで作品名は伏せます)かもしれません。

 スライムという名を使っていいものかどうか分かりませんが、こっそり使っても平気そうです。

 宇宙から来た生物だったり、古代生物だったり、魔法で作り出された生物だったり、アメーバだったり、粘菌だったりと、出演作品によって色々といるようです。

 変わった処だと泡だったり、服だけ溶かしたりするのもいるそうです。

 ピンク色の悪魔が出て来るコンピューターRPGゲームの所為か、又は国民的テレビゲームの所為なのか、いつの間にか序盤に登場するザコモンスターになりました。

 小説や映画に出ていた頃は人の体内に入ったり、包み込んで消化吸収したり、海底からやって来て沼に潜んでいたりと、恐怖の対象でした。

 斬ったり叩いたりしてもダメージが無かったり、少なかったり。

 焼いたり、凍らせたり等が有効のようです。


「リト、駆け抜けるぞ。色々集まってくると面倒だ。天井のスライムが怖いけどな」

「あい。だいじょぶ。任せて。スライムもトカゲも感知できてる」

 リトを連れた男は広い岩肌の通路を駆け抜ける。

「右からリザードマン。出て来る」

 リトは走りながら、マスターへ近づくモンスターを報告する。

 男は速度を上げ、勢いを増して跳ぶ。

 脇の穴から出て来たリザードマンへ、足をたたんで跳びかかる。

 左足が伸ばされ、トカゲの顔を貫いたのではないかと思える程に、足刀が目の脇にめり込み、地面にリザードマンを叩きつける。

 着地した男は、反応もできず地面に伸びる蜥蜴男を、チラリとも見ずに走り出す。


 突然天井から落ちて来るスライムに気を付けていれば、6階を駆け抜けるのはそう難しくもなさそうだ。

 騒ぎが落ち着いたら、この階でトカゲでも狩るのも良いかも知れない。

 そんな事を考えて走っていると、階段が見えて来た。

「む~……やっぱり違う階層は感知できない。なんで?」

 スキルで強化されたリトの索敵でも、階層が変わると効果がないようだ。

「別次元とかって話はマジなのかもな」

 階段を降りてすぐ、健太組に追いついた。

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