14-3 USB
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モモウラ教授(ドッペルゲンガー)の思考は四方を取り巻くデータの中に埋もれていた。
丁度、泥沼にはまっていくような、もがいてももがいても沈んでいく思考。
何故だ。
先程から頭の端でそればかり唱えていた。
何故だ、何故上手くいかない?
私がどこかで間違えたとでも言うのか。
このドッペルゲンガー製造計画を達成することだけが私の存在理由だった……いや、そうだったのか?
何故だ、何故私はドッペルゲンガー製造計画なんてものを追っているのだ?
『高度な知能』? それを手に入れた先に何がある?
何故だ、何を手に入れても虚しいのは。
手に入らないものだけが目について手に入った途端に興味を失うのは……。
何故だ、何故……。
教授はガタリと椅子から立ち上がった。
研究室の隅の
教授は苛立たしさのオーラを撒き散らしながら、実験中のオリジナルの青年の部屋に行った。
カズマという青年は椅子に拘束されて、ぐったり項垂れていた。
「……これは、どういうことだ⁉」
教授は傍で監視していた助手の男に怒鳴った。
彼は機嫌を窺うように、おそるおそる答えた。
「ソラ職員から教授の指示だと言われたのですが……」
ソラというのはこの研究所のセキュリティを管理していた職員のはずだ。
勿論、教授はそんな指示を出していない。
確かにオリジナルの青年の知能を低下させることでドッペルゲンガーの青年の『高度な知能』を作り出すことが出来る。
しかし、それはドッペルゲンガーの青年を捕らえた後の話だ。
今の時点でオリジナルの青年を弱らせれば弱らせるだけドッペルゲンガーの青年の知能は上がり、逃げられる可能性が高まってしまう。
「ソラに連絡を取れ。どういうつもりなのだ」
「それが……連絡が取れない状態でして……」
言い辛そうに窺ってくる助手に「もういい!」と怒鳴り付け退出させた。
何故何もかもが思い通りにいかないのだ。煩わしいことこの上ない。
ふとオリジナルの青年――カズマと目が合った。前髪と眼鏡から覗く目が、鋭く教授を刺した。
「何だその目は」
気付くと唸っていた。
「…………」
カズマは何も言わないままこちらを凝視した。
ぐらりぐらりと視線を揺らがせながらもその瞳からは明瞭に非難の色が読み取れた。
何なのだ。何故私が非難されなければならないのだ!
教授は腕を振り上げ、カズマの頭を殴りつけた。
「がっ……は……」
カズマの顔に一瞬の怯えが走って、直後歯を食いしばった。
あんたには屈しない、と言っているのが分かった。
「何故だ。私は間違っていない! 何としてもドッペルゲンガー製造計画を成功させる必要があるのだ。何故邪魔をする! 何故上手くいかないのだ!」
続けて二、三度拳を振り下ろした。
いつしか自身の焦燥を抑え込むために暴力を振るっていた。
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