第9話 幼馴染のお姉ちゃん 後編
※ タイトル色々試行錯誤で変えてますが、作者も大変なんだなぁ……と生暖かい目でお願いします。以下、本編です。
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「で、アンタ等付き合ってんの?」
それを聞いて、俺とリーリヤは互いに顔を見合わせる。
そして、すぐに香織に顔を向けて――
「付き合ってない/ません!」
ハモった感じのその声を聞いて「ブバフォっ!」と、口から息を吹き出し、心の底から楽しそうに香織は笑ったのだった。
「何笑ってんだよ……」
抗議するような俺の視線に「いやー、ゴメンゴメン」と香織は両手を合わせて頭を下げる。
と、そこで急に真顔になってリーリヤの顔をマジマジと眺め始めた。
「で、この子……2年のリーリヤちゃんだよね?」
「あ、はい……」
「いやー、生で見るの初めてなんだよねっ!」
そうして、香織は持ち前の遠慮の無さで、即時にリーリヤをギュっと抱きしめたのだ。
「……え?」
それは、困惑するリーリヤをお構いなしの抱擁だった。
「うっわーーー!!! 色白ーい!!! 髪の毛サラサラー!!! 肌もスベスベーっ!!! ってか、何か良い匂いするしーっ! お人形さんみたいでかーわーいーいー!!!!!!」
「……あの……その……え?」
そういえば――。
昔からコイツは可愛いものを抱きしめる癖があったな。
常に学院カースト最上位に属する立場と、「まあそういう奴なので」という定着したキャラのおかげで、俺の知る限り今までトラブルにはなっていないんだけど。
とはいえ、リーリヤにとっては全然知らない他人なのは間違いない。
そうしてリーリヤは困ったような顔のままで隙を伺い、サっと香織の抱擁から逃れて俺の後ろに隠れてしまった。
「あの……その…………困り……ます」
「ありゃりゃ? ちょっと……いきなりすぎたかな?」
「……何ていうか……その……人に触れるのは…………苦手……なので。すいません」
すると、香織は俺とリーリヤの横に回り、悪戯娘全開の様子でニンマリと意地悪い笑みを浮かべた。
「人に触れるのが苦手ねえ……」
状況を説明すると、リーリヤは俺を前にする形で盾にしている。
つまりは、ガッツリと押し出す形で俺の背中にはリーリヤの両掌が接着しているわけだ。
と、そこで香織は「コホン」と咳ばらいと共にこう言った。
「で、アンタたち付き合ってんの?」
そしてやはり、俺とリーリヤは互いに顔を見合わせる。
そして、すぐに香織に顔を向けて――
「付き合ってない/ません!」
で、先ほどと同じく「ブバフォっ!」と、口から息を吹き出し、心の底から楽しそうに香織は笑った。
「いやー、これは美味しいわ……。あはは、いや、ホント美味しすぎるわよアンタたち」
「ってか、香織……冷やかしなら帰ってくれ」
「しかし……へー……。そうなんだ。リョータに……へー……。なるほどねえ……」
何ていうか、本当にコイツは……。
香織のニタニタ顔を見て「くっそ……」と、俺の胸には恥ずかしいのやら腹立たしいのか良く分からない感情が渦巻いていく。
ちなみにリーリヤもどうして良いか分からないという風に、ただただその場でオドオドするばかりの状況だ。
「……」
「……」
「……」
何故か、三人でお見合いの状況になった。
しばしの無言が室内を支配している状態だが、特に気まずい沈黙というわけでもない。
しかし――南方の増長天と、北方の多聞天……か。
つまりは、ハイテンションな香織と、オドオドして大人しいリーリヤ。
何というか対称的な二人だなと、俺は他人事のようにそんなことを考えていた。
「ともかくリーリヤ。香織は初対面でもお構いなしにグイグイ距離感を詰めてくるからな。そういう奴なんだ」
やれやれだという風に溜息をつくと、リーリヤはそこでクスリと笑った。
「グイグイ距離を詰めてくる……? それはリョータさんもなのでは?」
「俺には香織みたいに、誰にでもいきなり距離を詰めていくような習性はない」
「……」
「……」
「……そうなのですか?」
と、リーリヤに少し嬉しそうに尋ねられたので、俺は肩をすくめて……いつもリーリヤが言っているように、こう返した。
「そうなのです」
と、そこで香織は再度「ブバフォっ!」と息を噴き出した。
「もう、何なんだよさっきからお前はっ!」
「いや、アンタたちがさっきから何なのよ……。ってか、うん、オッケー、オッケーよ……! 事情はともかく、状況のほうは100パー理解したから!」
「ったく……もうマジでめんどくさいからお前帰れよな」
「うんうん、帰る帰る。じゃんじゃん帰るし、どんどん引っ込むわ」
と、そこで香織は腕時計を確認して小さく頷いた。
「さて、じゃあ、私は本当に退散しようかなっと。あ、母が作ったサンドイッチはちゃんとお昼に食べなよ? アンタの好きなアボガドサンドね……他にも野菜たっぷり入れたって言ってたから」
そうして香織はリーリヤの頭にポンと掌を置いてニコリと笑ったんだ。
「それじゃね、リーリヤちゃん。学校で困ったことあったら遠慮せずに私に言って来てくれて良いからね。こう見えても、お姉ちゃんはそこそこ学校では顔がきくし」
で、そのまま香織はポンポンとリーリヤの頭を優しく2回叩いた。
リーリヤとしては、やはり人に触れられるのが苦手というのは本当のようだ。
どうして良いか分からないらしく、やはり困った顔で少し顔を赤くして黙っている感じ。
「あ、それと……ちょっとリョータこっち来なさい」
で、リビングにリーリヤを残したまま、俺は玄関の外に連れていかれたわけなんだが――
「何だ香織」
「私……そういうの大好物よ? とりあえず、学校のみんなには黙っといてあげる」
「……」
「あと、たまには私にも一枚嚙ませなさい……面白いから」
そうして香織は親指をグっと立てて、ウインクして去っていったのだった。
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