悪役令嬢は実力テストで首位をとる
学園に入学してから一ヶ月。学力テストが行われた。定期的にある学力テストはクラスの振り分けにも影響される。
実際、希望のクラスになれたことで手を抜いてしまった生徒達が下のクラスへと早々に落ちてしまう、ということはよくあった。
アンネは自分のテスト結果を確認して安堵の息を吐いた。今回のテスト結果はSランク内に余裕で入っている。総合順位の欄には数字の「2」が印字されていた。この分だと学費の全額免除対象条件も無事にクリアできるだろう。
アンネが一安心していた時、背後から名前を呼ばれた。驚いて振り向くと、同じクラスのダニエル・バウマンと視線が合った。どうやら声をかけてきたのは彼のようだ。
「アンネ嬢、次位おめでとうございます」
「え? なんでそれを……」
「やはり、あなたが次位でしたか」
「……
むっとした表情でダニエルを睨むが、鼻で笑い返されてしまう。
「騙される方が悪いのですよ。今回は
「そうですか。でも、私も負けませんから」
はっきりと言い切ったアンネにダニエルは一瞬驚いた表情を覗せたが、すぐに面白いとばかりに笑みを浮かべた。
乙女ゲーム『危ない学園』から一部抜粋
先日実施された学力テストの結果が生徒達に配られた。Sクラスでは大半の生徒達が自分の成績を確認して安堵していた。自分達の成績確認が終わると、自ずと一人の生徒に注目が集まる。
複数の視線に囲まれているはずの
一章分を読み終わり、視線を上げると誰かが目の前に立っている事にようやく気づく。
「……ダニエル様、何か?」
「ユーリ孃、おめでとうございます」
「ん?」
祝われる理由が分からず首を傾げていると、横から肩を突かれた。突いてきたのはレオンだ。
「ユーリの成績の事だ。今回首位だっただろう?」
「ああ。そうだが……よく分かったな?」
ユーリが先程見た成績表には確かに総合順位に「1」という数字があった。ダニエルは笑みを浮かべたまま頬を引き攣らせた。レオンはダニエルの反応に苦笑し、代わりにユーリに教えてやることにする。
「この学年のものなら全員わかるだろうな」
「学年全員に私の順位がバレているのか?!」
「でしょうね。どのクラスでも学科毎に最高得点者としてあなたの名が呼ばれているでしょうから」
ダニエルは皮肉を交えた説明をしたが、ユーリはただなるほどと頷くのみで肩透かしを食らった気分だった。思わずレオンに視線を向けるが、無言で首を横に振られる。男二人が何とも言えない表情を浮かべている間、ユーリはテスト返却時の事を思い出していた。確かに、担当教師はテストを返す時に学年最高得点者の名前と、その点数を告げていた。————まさか、それが他のクラスでも行われていたとは。ユーリの眉間に皺が寄る。
「この分だとあの噂は本当だったのですね」
「噂?」
「入試で学園初の全教科満点者が出たという噂です」
「ああ、それは間違いなくユーリのことだな」
レオンの返答に、確信はあったもののダニエルは驚かずにはいられなかった。ユーリも驚いた表情でレオンを見る。
「私としては何故私の成績がレオンに筒抜けなのかが気になるところなんだが」
「それは、あれだ、婚約者特権だ」
レオンが気まずそうに視線を逸らした。ユーリはジト目でレオンを見つめた後、ニヤリと笑みを浮かべた。
「そういえば、レオンも入試の半科目以上が満点だと聞いたぞ?」
「な、どこから俺の情報が漏れたんだ?!」
「王妃様からだな」
「は、母上」
まさかの身内からの情報漏洩にレオンはこめかみを押さえた。
「仲がよろしいようで」
いつの間にか蚊帳の外にされていたダニエルは呆れたように嘆息する。周りの生徒達が二人に驚きと尊敬の目を向けているのを横目に、あえて挑発的な言葉を発する。
「ですが、現を抜かしていると私が追い抜いてしまいますからお気をつけくださいね」
「な、う、現をぬかしてなど!」
頬を染め、声を荒らげるレオン。対照的にユーリはその挑発を面白いと捉え、乗り気になった。
「なら、次のテストは勝負だな」
「ええ。負けませんよ」
「お、俺も! 俺もいるからな」
「じゃあ、三人で勝負な。あ、ダニエルと呼んでもいいか?」
「ええ、構いませんよ。ユーリ」
ユーリは新たにできた
一部の生徒達は次のテストで誰が勝つかを予想して語り合い、別の一部の生徒達はユーリとレオンの中の良さについて黄色い声をあげながら語り合っていた。各々興味がある話題で盛り上がっている中、クラスの一番後ろの席に座っているアンネは成績表を握りしめブルブルと震えていた。
「こ、この私が九位。Sクラスギリギリじゃない。しかも、あの女が満点ですって?! きっと、教師達を買収したに違いないわ! これだから金持ちはっ……見ていなさい。次のテストは私が首位をとるんだから」
ダニエルとのイベントを潰され、レオンとの仲を見せ付けられたアンネは憎々しげにユーリを睨みつけた。
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