第12話 玉響
あれから数年が経った。
俺の家は無事だったため、のんびりとコーヒーを飲みながら外を眺める生活をしている。
隠居しているもんだな、実際は。
帝国の領土になっても町は何も変わらない。城があったところが全部畑に変わったくらいだろうか。帝国が取り締まった人間を労働力として、様々な作物を栽培しているそうだ。
ああ、そうだ。あとは町の入り口に帝国の兵士の詰所が建てられた。モンスターが町に入らないように見てくれているほか、犯罪者を取り締まってくれている。
もちろんマリーが詰所に来ることもある。仕事の合間に俺の家に押しかけてくるのは迷惑だが、断っても押し通してくるもんだから最近は諦めた。
結局あれからミランダとは会えていない。
聞けば公国にも帰っていないようだ。
マリーが公国に説明をしてくれたのだが、特に咎めることなく公国はミランダの失踪を受け入れた。
最初は俺もマリーも戸惑った。だが公国はよくあることだからと、深く追求してこなかった。
「ミランダかはわからないけど、兵士が山奥で召喚獣を従えた女性を見かけたみたい。霧が深くてすぐに見失ったって……」
少し前にマリーが話したことを鵜呑みにするわけではない。それでも俺はそれはミランダなのだろうと思うことにした。
人間不信になったのかもしれない。自分の行動が恐ろしく感じたのかもしれない。
必死に俺たちと走っている間は気づかなかったことに、気づいてしまったから。
それでもどこかで生きているならいいか。
俺はそう思うことにした。
ふと魔王城があった方角を見る。家の一番大きな窓はちょうどその方角なのだ。
天気が良い日でも、空気が乾燥して遠くまで見通せる寒い日でも、いくら目を凝らしても魔王城を見ることができない。
モンスターの脅威は激減した。それこそ人が不用意に彼らの縄張りに踏みこなければ、何もしてこない。自然災害や人よりも無害だ。
この状態が続く限り、魔王と勇者が魔王城から出てきていないことの証明になる。
人の方は、帝国軍が取り締まる限り安心できるだろう。
はたしてこの平穏がいつまで続くのやら。
俺は冷めたコーヒーをすすりながら、今日も見えない魔王城を見ようとしてる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます