第3話 初対面

 さすがに絵師に違う話を求められたので、俺は一から思い出すことにした。そうだ。初めて全員が揃った時の話はどうだろう。


 俺と勇者、そしてイタカは王国。マリーは帝国。ミランダは公国から魔王討伐メンバーとして選出された。

 俺たちは初対面で、多分、魔王討伐なんかなかったら出会うことは一生無かった。

 王国城内で魔王討伐メンバーが集合し、城下町を出た辺りで勇者が歩きながら能天気な声を上げた。

 

「まずは自己紹介からだよな! おれが魔王討伐メンバーのリーダー! 勇者様だ!」

 

 第一印象は満場一致で面倒くさそうな奴。

 

「じゃあ次! 白いフード被ったきみ!」

 勇者の自己紹介を唯一微笑ましく見ていた奴は、白いフードを脱いで俺たちによく通る声で言った。

 

「王国の聖堂教会から来た、イタカだ。一応これでも回復も攻撃もできる魔術師だから、守ってもらわなくて結構だよ。よろしくね」

 

 勇者の後ということもあり、俺たちはイタカに頼もしさを感じた。回復を担う魔術師がまともなのはとても大切だ。

「じゃあ次は緑色のマントをつけてるきみ! ええっと……すごく小さいけど子供じゃないよね?」

 次に指名された小柄な少女はムッとした顔をした。

「帝国から派遣されたマリーよ。人を見かけで判断する勇者様のために教えてあげる。あたしは今年で十一歳だけど、帝国では師団で野砲兵を務めてる。ナメたこと言ったら頭吹っ飛ばすから」

 そう言ってマリーは背中に抱えていたライフルの銃口を勇者に向けた。さすがに安全装置は外していないが、勇者は慌てて謝った。

「じゃあ次にいこ! そっちの美人のお姉さん! お願いします!」

 最後のはこの空気をどうにかしてくれ、という意味だろう。

 マリーより年上に見える彼女は、俺が言うのもなんだが、とても公国の人間らしい。困ったように首を傾げれば、金のイヤリングが揺れた。

「えっと……公国から来ました、ミランダと申します。あの、話すことが苦手でして……あ、ああっと、えっと、召喚師です。よろしくお願いいたします」

 ミランダは俺たち四人からの視線を気にしているのか、顔を赤くしながら頭を下げた。

 おいおい公国、こいつ大丈夫か。

 ちらりとマリーを見ると、多分俺と同じことを思っていそうな顔をしていた。

 

「よろしくミランダ。召喚師なら中衛か後衛の方がいいかな。マリーもガンナーってことは同じ位置付けになるだろうから、俺は二人より少し前に出るようにするよ」

 魔王討伐に出るために、隊列を考えたのはイタカだった。

「勇者と、そっちの強面さんは武器を見る限り前衛で問題なさそうだけど、どうかな」

 イタカに話を振られ、俺は静かに頷いた。

「勝手に話を進めるなよイタカ! まだおっさんの自己紹介終わってないだろ!」

 勇者に笑顔で軽く謝りながら、イタカは俺にどうぞ、と目配せをした。

 俺はため息を吐いた。

 

「王国の傭兵部隊から来たコモドールだ。武器は見ての通り大剣。この中で最年長だと思うが、二十一だ。よろしく」

 

「え……おれの五こ上?」

「あたしてっきり四十いってんのかと……」

「す、すみません。まさか四つ上とは思っていなくて……三十代かと思っていました」


 三人の反応は慣れている。自分でも老け顔で強面だと思っているから何も傷つかない。

 だがイタカだけは違った。

「あ、コモドールと俺、同い年だ。良かった、俺だけ二十代だと思ってたからなんか安心したよ」

 嬉しそうに笑うイタカとは対照的に、俺たち四人は驚きのあまり叫んでいた。

 近くの木から鳥が飛び去り、周りにいたであろうモンスターも驚いて遠くに走って行った。

「おれとイタカは同い年だと思ってた」

「うわぁ……天使とクリーチャーって言葉を使う日がくるとは思わなかったわ」

「おい、俺に失礼とか思わないのか」

「あ、きっと、そう、聖堂教会で特別なことをされていたのでは? 聖水を使って御身体を清めるとか」

 失礼な発言しかしない勇者とマリーとは違い、ミランダが気を利かせてくれた。

 

「たしかにお清めはしていたけど、聖水って言ったって水に変わりないから。特別なことはしていないよ。強いていえば自然の物を使ってたくらいかな。髪は小麦粉で洗っていたし」

 

 イタカに笑顔で一刀両断され、俺は頭を抱え、勇者とマリーは腹を抱えて笑い、ミランダは困ったようにおろおろしていた。

 

 ああそうだ。最初の頃は、楽しかったんだ。

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