第7話 逃げなきゃ
「ボクの名前はリン。君の異能を貰いに来たんだ。お人形さん」
リンと名乗る彼は、
敦は「逃げて!」と
──────『死』
後ろではリンが、可愛らしくくすくすと笑っている。
混乱した敦は「何で!」と、聞いてきた。
「いいだろうよ。察してんデショ? あいつの手に捕まれば、
リンが例の失踪事件の犯人なら、彼の異能は転送なのか? それとも消去なのか? いや、まさか物理的に『消した』? ……
敦が何か云っているが、何も聞こえない。ただ少しでも遠くへ、ほんのちょっとだけでも早く。……そればかり考えていた。
──後にそれが、敦なりの道案内と忠告だと知る。
「何で早く云ってくんなかったの!」
「云いましたよ〜!」
敦に八つ当たりをした所で、聞かなかったのも勝手に突き進んだのも、
「道を戻ろう。ここなら、探偵社までの近道がある!」
「そうだな。あいつが何処に居るか分からんし、見つからんように……」
「あはっ、みぃつけた。お人形さん」
気がつくと、リンはそこに立っていた。
退路を塞ぎ、ニコニコと笑っている。人間味の無い笑顔は気味が悪い。
「どうして……ついてきたってぇの?」
「いや、途中で見失っちゃった。でぇも、ボクに追っかけられる土地勘の無い君が、どういう
リンが前に足を踏み出すと、敦は腕を虎化させる。
「──
自分の異能とか、端から興味無い。異能が何だったとしても、
リンはキョトンとして首を傾げると、「ああ、そこの虎ちゃん?」と敦を指さした。
「いーよ。ボクの目当てじゃないし」
リンはつまらなさそうな表情をするが、了承した。
「やっぱりそーなるよねぇ。だって、ボクに勝てる奴なんか、一人も居ないんだから」
リンの後ろから、
相手が銃を持っていようが、リンが約束を守る気がなかろうが……──どうだっていい。
「………………笑ってなぁ」
『念の為』と、国木田に渡されたそれを、私は口にする。
「『独歩吟客』」
…………一枚の紙。
本来なら変化しないそれは、形、材質、感触、質量を大きく変えて、
リンは目を見開いた。
「自動拳銃」
引き金は引く時以外は指をかけない。腕は真っ直ぐ伸ばし、肘を少し曲げる。
照星と照門を合わせて、狙いがぶれないように固定して──……。
(──あいつ、
急に冷静になって来た。
だが彼が
「ボクを撃つ気ぃ? 君の銃弾なんか、ボクに
「
非情野郎が悪かったのか、リンは歯ぎしりをし、拳を強く握った。
「このボクを、『
リンは激昂し、後ろの彼らに「撃て!」と命令する。もう
男たちは銃を構えた。
太陽が隠れ、暗くなった路地でリンは男たちの後ろへと消えていく。
「あ…………」
思わず銃を下ろした直後、
殺される。
その恐怖が体を強ばらせ、銃弾の嵐の前に縫い付けた。
ずっと聞こえる銃声に、
見ていないから平気なんだ、と自分に言い聞かせ、
銃声が止み、男たちの足音が遠ざかっていく。
浅い呼吸を繰り返して、自分の手を恐る恐る視界に入れた。
けれど、そこには傷一つ無い、まっさらな自分がいた。呼吸が穏やかになり、汗も止まってくる。
そして、「どうして自分は死んでいないのか」という疑問が押し寄せてきた。
「はぁ、はぁ……。っはぁ。よか、良かったぁ。生きてる……。は〜ぁ、流石に肝が冷えんねぇ。あんなん浴びて、もう駄目かと思ったや。なぁ、中島くんや…………中島くん?」
「な、中島くん……?」
手にべったりとついた、粘着質な赤い液体。鼻を突く錆びた鉄の臭いが、背筋をつぅと撫でた。
「ど、どうしよう! あ、あぁ、中島くん! しっかりおしよ ! 中島くんっ、中島……あ、敦! 敦ぃ!」
重体の敦を前に、
悩んでいる間にも、敦の体から血は流れ出る。
どうしよう? どうすれば良い? 誰に助けを求めたら?
『探偵社までの近道が』
敦は
若しかしたら、誰か探偵社に居るかもしれない。
「……国木田!」
『危険ナ状態二陥ッタ時、至急連絡スルコト』
国木田と結んだ約束の一つだ。
スマホには、国木田の連絡先が入っている。
スマホを耳に当て、呼び出し音を聞く。
音が繰り返される度に、焦りが大きくなる。
二人分の足音と、着信音が近づいてきた。
もうちょっとで泣きそうな
「大丈夫か!?」
「あ、うぁ。く、にき、だ?」
「あぁ、俺だ。『さん』を付けろ。怪我は?」
「あ、あつ、敦が」
「早く与謝野
太宰に尋ねられ、
国木田は敦を背負うと、いち早く探偵社へと駆け出す。太宰は
だから
「……
敦だけが大怪我を追った。
太宰は少し、考える素振りをみせて、「そうか」とだけ云った。
──まだ、耳の奥で銃声が聞こえていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます