第6話 犯人を探せ
初の公式外出。
冷たい風に乗ってくる美味しそうな匂いに、目を引く小物の可愛らしさ。少し足を止めて、見に行きたい所ばかりで困ってしまう。あれもこれも気になるが、今は我慢しなくては。
人通りの多い道で、敦は一生懸命に聞き込みをする。彼から少し離れた所で、
かといって、怠けるつもりは無く、聞こえてくる話に耳を
けれど入ってくる情報は乏しく、
目撃者は皆、口を揃えてこう云った。
『気がついたら居なかった』
──もう、聞き飽きた。
***
海を臨むベンチに座り、風にそよぐ水面をぼうっと眺める。近くで見つけた移動販売のクレープを頬張りながら、時間を潰す。
「中島くんは、あれだな。あんまりにもなぁ、絡まれやすいというか、
「うっ、別に
「どっかの誰かを、助けなくちゃいけんからなぁ」
地道な作業が、この仕事の基本だ。普段の
「笹舟渡さんは、図書館で働いてるんでしたよね」
沈黙に耐えかねた敦が、話題を投げた。
これで会話が終わるかと思った。
「ど、どんな事をしてるんですか? ほら、図書館のお仕事って、あんまり想像出来ないっていうか」
敦が頑張って会話を繋げる。図書館の仕事なんて、大体予想はつくだろう。だが、敦の努力を潰すのも申し訳ないので、適当に答えた。
「
それだけだ。気まぐれに手に取った本を、傷の確認と称して、表紙を開く。そして、一
それが、人の少ない田舎の仕事。怠けたところで、誰も叱らない。
「……お気に入りなんだ。館内の東側が。天井の近くに、高い窓があって、そこから差し込む光が、床に窓と同じ形を描くのサ。
──じんわりと肌を温める日差しの中、本を読み耽る楽しみが、
けれど、敦は馬鹿になんてしなかった。
「分かりますよ。すごく小さくて、自分だけの幸せってありますよね」
敦はそう云って、孤児院の話をしてくれた。ほんの少しだけ。一杯の茶漬けのことを。
美味しかったと語る彼は、懐かしむような、古傷を隠すような目をしていた。
「その茶漬けは、
「はい」
「……
それを食べれば、彼の気持ちが理解出来るかもしれない。なんて、妄想を抱く。
敦はおすすめの茶漬けを教えてくれた。
「見ぃつけた……」
ふと気づけば、少し離れた所に一人の男の子が立っていた。服装全体が黒いが、ショートパンツとニーソックスが良く似合う、人形のような顔立ちの男の子だ。
彼は
「やっと見つけた。ボクねぇ、ずぅっと君を探してたんだぁ」
「……は?」
意味の分からない事を云われ、
男の子は
「ボクのお人形さんっ!」
──あ、まずい。
彼に触れたら、戻れなくなる。そう直感したが、動くには遅かった。
彼の手は、
「うぐぇっ!」
襟を掴まれ、強い力で後ろに引っ張られる。体が浮き、少年から勢い良く遠ざかる。
敦が、
「うわぁお! 凄いすごーい! 今のすっごく良かったよぉ! 速くて全然見えなかった!」
少年は言葉とはそぐわない乾いた拍手を送り、ぴょんぴょんと跳ねてみせる。
敦が
「これが、異能?」
人とは違う獣のそれに、
色々と聞きたいことがあるが、それどころではない。
少年はニコッと笑い、
「良いねぇ。君には守ってくれる人がいて。良いなぁ。その異能も」
少年は敦に目を向ける。
そしてまた、その細い腕を伸ばした。
「ねぇちょーだい?」
子供のように無邪気で、悪意に満ちた笑顔が恐ろしかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます