第2話:昭和のドラマかよ……。これがマーちゃんの生きる道。

そんなマーちゃんにも校内に不良仲間がいる。

他のクラスの石川しょうと沢田唯人ゆいとだ。

私はこの二人を「気の毒なイケメン」と密かに呼んでいる。

二人ともそこそこハンサムなのに、マーちゃんがあまりにも綺麗なのでその男前が目立たない。

イケメンに生まれたのはラッキーかもしれないけど、マーちゃんと一緒にいるのはある意味不幸かもしれない。

マーちゃんは昼休み・放課後と、この二人といつも三人で過ごしている。

だいたい、男子のヤンキーは女子のヤンキーとつるんで何やらエッチなことをするのをよくマンガで読むけど、

さっきも言ったようにマーちゃんは群れるのが嫌いなので3人というわくを超えられない。

いつも同じ三人。

石川翔と沢田唯人もマーちゃんと三人でいる方が楽しいようだ。

この二人は他の生徒とよく喋るけど、マーちゃんは喋らない。

それで無口で人を寄せ付けないほどの美しい顔があるので、マーちゃんは何だか学校で孤高の仙人のような存在になっている。

一人髪をなびかせて窓の外を眺めている横顔はめ息が出るほど美しい。

女子生徒もマーちゃんの無愛想ぶあいそうさに半ばあきれているけど、

やっぱり並はずれた美貌は否定できないので、

油断すると固まってマーちゃんの顔に見惚みとれてしまう。

みんな、それを素直に認めたくないので

「時岡のどこがハンサムなのッ、あんなダンマリ」

と憎まれ口をたたいて自分を肯定する。

マーちゃんはそんな女子の複雑な心を、コンビニの店員が渡すレシートを無視するかのように何事もないようにやりすごして放課後学校を出る。

でも、やはりお金が無いので遊べない。

河川敷かせんじきで喋っているか、コンビニの前でたむろしている。

盗みはやらない。

こんな高知県の田舎町に盗むものなんか無いし、

わざわざ高知市まで出る金銭的時間的余裕も無い。

それにせまい町なので誰が何をやったかすぐにバレてしまう。

マーちゃんは逮捕される悪さをしない。

それは、マーちゃんの家が店をやっていて、犯罪を犯すと商売に支障が出て生活が立ち行かなくなるからだ。

この辺は大人だなあと思う。

でも、タバコはやっているようだ。

澄ちゃんが言っていた。

澄ちゃんとはマーちゃんのお母さんのことで、スナックのママをやっている。

そんな澄ちゃんが家へ来て

「マーがタバコ覚えちゃってさあ」

と私の母にボヤいていた。

幼馴染みの母を「澄ちゃん」と言うのはおかしいけど、澄ちゃんが

「『おばちゃん』って呼ばないで」

と言うのでそう呼んでいる。

初め「ママ」と呼ばせようとしたんだけど、

私の母が「どっちが親か分からん」と反対したので「澄ちゃん」に落ち着いた。

まあそんな話はいいとして、

マーちゃんは放課後適当に三人でブラブラして夕方には家に帰ってしまう。

店を手伝うからだ。

さすがに接客はできないので、掃除・皿洗い・軽食の仕込みなんかを担当している。

店には出ない。

それでも、マーちゃんに色目を使っているオバサン客も最近ちらほら出てきたようだ。

「店の客でマーにちょっかい出そうとするヤツがいるんだよね」

と、これまた澄ちゃんが母にボヤいていた。

マーちゃんの『不良』とはせいぜいこんなもんだ。

あとは安物の整髪料ぐらい。

まあ、カッコウもよくないね。

標準服を着て髪の毛ちょこっと横に流してダサい。

ダサいという言葉もダサい。

私の高知の田舎町にはテレビに映る渋谷や原宿の小洒落こじゃれ垢抜あかぬけた文化は遠く及んでこない。

この地域のヤンキーは、今のギャルでもなく、ひと昔前のチーマーでもなく、なんとふた昔前のツッパリなのである。

マーちゃんもその野暮やぼの壁を越えようとはせず、夕方にはさっさとツッパリをやめ、夜、黙々とスナックの手伝いをする。

石川翔も実家の農家の仕事をするし、沢田唯人も下に5人、弟と妹がいるので、その世話と家事に忙しい。

この労働というのが歯痒はがゆくて、

生徒のみんなも先生たちも、マーちゃんたちが働いて不良をやっているのでどっか一目いちもく置いているところがあって、何となく近付きがたく注意もしづらい関係を作ってしまっているのだ。

少年と労働……。

何とも泣けてくる関係なのだ。

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