第二十三話 ムト、聖都の外へ出ます
「うわぁ、すごいね! まるで外国の街!」
馬車から見る聖都の街中は、テレビで見たヨーロッパの石造りの街そっくりで、行き交う人や建物の
「アヤ、はしゃぎ過ぎですよ。それと、あの建物が明日の試合会場の武道場です」
隣のソリアが笑いながら指を差して教えてくれる。
屋根の無い武道場は、大聖堂から見下ろした時より大きく見えた。
「緊張する~」
アラン妹が両手で自分の頬を叩き、気合を入れる。
「俺は明日より今日の方が緊張するんだが……」
アラン兄がそんな妹を見てため息をつく。
「でも、やっと精霊相手に戦える!」
ピヴォは意気込んでいて、オリバーさんはニヤリと笑う。
わたしたちは、ゴレイラとフィクソアが運転? する馬車で移動してる。
試合を明日に控え、今日は聖都の外で実戦形式の練習を行うのだ。
皆は練習の成果を確認したり、親衛隊が使う精霊魔法に対抗する練習に頭がいっぱいみたいだけど、わたしは街の
カメラがあったらなぁ、お父さん、お母さん、のぞみんにも見せてあげられるのに。
両親がこちらに来れない理由をオリバーさんに聞いたところ、簡単に言えば『
そして『
ちなみに
なので、わたしの『
それは本当に怖い。
ともあれ、オリバーさんの
そんな風に考えてると、聖都を覆う壁に近付く。
今日、街の外に出るのは北の門からだ。
聖都から他の都市に移動するための街道は南にあり、北の森はめったに人も行かないので、秘密練習をするには最適って聞いた。
たくさんの門番、聖都警備隊が並ぶ、壁に作られた頑丈な両開きの門を
壁を抜ける通路はトンネルの様で、門も全部で五か所あり、壁がどれだけ頑丈に作られてるかわかる。
「この壁も門も、数百年前からどんどん増築しているようです。さらに、壁の外側には強力な結界魔法も張れるんです」
わたしが驚いた顔で見てたからか、ソリアが教えてくれる。
「こんな頑丈な壁と門があれば聖獣も入ってこれないんじゃない?」
「守りは固くとも、聖獣を撃退するには壁の外で戦う必要がありますからね」
壁を越え、聖都の外はしばらく草原地帯が続き、やがてまばらに木が増え、森に繋がっている。
街から数キロほど離れ、森の手前で馬車は止まる。
馬車から降りて深呼吸する。
大聖堂から外に出る時は、一階にある屋内の馬車乗り場から出発したので、コルドリアの世界に初めて降り立った気持ちになった。
空気が美味しい! と何度も深呼吸してしまった。
皆はさっそく練習準備だ。
今日は一人一人がオリバーさんと実戦形式の練習をする。
オリバーさんは精霊魔法や魔道具を使うらしい。
そう、初めて精霊魔法を見れるんだ。
わたしとソリアは安全のため少し離れた場所に立つ。
まずゴレイラが『
オリバーさんは、赤色、青色、藍色の玉がはめ込まれた杖を持っている。
「精霊を
ソリアの説明を聞きながら
オリバーさんが杖を振り、燃える球を二度三度ゴレイラに放つ。
精霊と言っても、生き物っぽい存在が現れるのかと思ったけど、そうじゃないみたい。
ゴレイラは避けず、白い盾を展開し、斜めに受け流したり、真正面から受け止めたりしてる。
次にオリバーさんが杖を振ると、シュオンッ! という風切音が聞こえ、ゴレイラは盾を巨大化させた。
白い盾に、見えない何かに刻まれたような線が走る。
「あれは、風?」
「大気を操り見えない刃を飛ばしています」
カマイタチとかエアカッターとか言うのかな。
見ていると、火の玉や風の刃がリズムを変え、ランダムに発動し、時たま火炎の竜巻みたいな熱風が発生する。
わたしは初めて見る精霊魔法に圧倒され、身動き一つできず見守るだけだった。
時間にして三分くらいだろうか、オリバーさんが動きを止めると、ゴレイラが荒い息を吐きながら膝を付いた。
「よし、いいだろう! このレベルの精霊に対抗できれば問題ない。後は
ゴレイラは声も出せずただ
それからフィクソア、アラン兄、アラン妹も同じようにしごかれ、最後にピヴォが相対する。
わたしは
みんなフラフラになりながら、何度も立ち上がり、その度に魔道具の使い方が上手くなっているのがわかり、嬉しくなった。
頑張れ頑張れ、と手に汗握る。
「アヤ、なにかしていますか?」
隣に立つソリアが少し心配そうに聞いてくる。
「え? なにかって?」
「アヤから、皆に、線が繋がっているように感じるのです」
「線?」
胸元から『
少しも動きのない、真っ白に輝く石に見える。
「なんという
ソリアが驚いた顔で
「えっと、何かまずい?」
ソリアの反応から本能的にまずいと感じ、『
同時にお母さんの言葉を思い出す。
〝お母さんはそれ、願いを叶えてくれる力があると思ってる。意志が強ければ強いほど、効果があるってね〟
そして、高橋と山岸に勉強するための集中力を願い、のぞみんに、ずっと一緒にいてほしいと願ったことを思い出す。
わたしの『
あの魔道具が、両親の想いをこめて創られたものであるなら、わたしも両親から生まれた存在だ。
姉妹、みたいなもの。
だから、わたしは魔道具を上手く使えるし、さらに『
「だから、
わたしが寝込んでいた四日間、彼らが力を出せなかったのは、彼らの力が足りていないからじゃなく、わたしが側にいなかったから?
それなら、わたしがいなければ、試練はどうなっちゃう?
ソリアを見る。
彼女は、少しだけ悲しそうに笑いながら。
「大丈夫ですよ。わたくしたちはわたくしたちの力で試練を越えられますから」
それは無理して作った笑顔だと思った。
―――――
帰りの馬車の中は、みんな疲れて眠ってる。
ソリアも普段は大聖堂の中に住んでいるからか、同じく疲れて眠ってる。
わたしは隣に座るオリバーさんに聞く。
「わたしがいなくて試練は越えられるのですか?」
「……ただ、無事に帰ることだけ考えればいいです」
「じゃあ、なんでわたしに『
「……本当に本当に、
「折春おじさん、わたし……」
「だから、明日の試合だけ、力を貸してくださいです」
おじさんは、わたしの言葉を
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