第三章 ムトと聖都防衛隊
第十八話 ムト、まだ帰れないみたいです
「……帰れない?」
「今すぐには」
「とりあえず、座りましょう」
ソリアに
折春おじさんが対面に座ると、カリアムさんがお茶を出してくれる。
どんな時でも冷静な人だな、と状況も忘れて感心してしまった。
「まず、すまんです」
おじさんは頭を下げる。
「いえ、そんな、えっと、折春おじさんのせいなんですか?」
「こういった可能性は考えてもいなかったです。結果から考えると、なるほどと思いますです」
「オリバー、ちゃんと説明して」
歯切れの悪いおじさんにソリアが少し強めに言う。
「簡単に言うと、
それから折春おじさんはゆっくり説明してくれた。
だけど普段より多くの
向こうでわたしが見当たらないことで、皆で周辺を捜したが見つからない。
わたしが帰宅後に更衣室へ入った可能性から、
転移には多くの
ただ、わたしの持っている「お守り」の位置で、
向こうで、帰宅分の足りない
「ソーイチとアユミも心配しているです。必ず無事に戻すので安心してくださいです」
「
ソリアが聞く。
「はい、ワタシが界を渡るだけなら三日もあればいいのです、しかし、アヤを確実に安全に返すために余裕が必要です」
わたしだけ送ろうとすると、元の場所に戻れるかわからないらしい。
最悪、誰も知らない場所に移動してしまうこともあるとか。
おじさんは転移に慣れているので、ウチの正確な位置を知ってる。
なので、まずおじさんが工場の更衣室に転移して、わたしと入れ替わるように
その為のエネルギー、
「
ソリアが補足してくれる。
さっき、シルジン王が大聖堂に入れないと困るって言ってたやつだね。
「この話はソーイチたちにも話してあるです」
おじさんの言葉に考える。
十日か、夏休みは始まったばかりだし、帰れることがわかったことで、ずいぶん心は落ち着いた。
週末のみんなとのサッカー観戦は残念だけど……のぞみん、心配するかな?
お母さんがうまく言ってくれると思うけど。
「わかった。ソリア、それまで面倒みてくれる?」
と、晴れ晴れとした顔で言えた。
「それはもちろん! でもオリバー、先ほどの試合とやらには影響は無いのですか?」
「アヤを送り返すことが最優先だ。試練も試合も、こちらの都合にアヤは一切関係ない」
おじさんはすごく怖い顔でそう言ってくれるけど、それはそれで寂しい気もする。
「折春おじさん、試合には勝てるの? どうせなら試合だけでも見たい」
「試練のためにアヤのご両親にお願いしてきたわけです……当然試合にも勝てなくてはいけません。そうですね、ご両親がどれだけすごいのか、知っておいてもいいかもしれませんですね……」
おじさんは少し考える。
なんとなく、いる間だけでもわたしにできることはしたいと思った。
それに、おじさんと両親の秘密も気になる。
「オリバーはアヤのご両親に何を頼んでいたのです? それとアヤはなぜ「オリハルおじさん」と呼ぶのです?」
「アヤ、こっちではオリバーと呼んでくださいです。それと、ソーイチのお守りを貸してください」
折春おじさん、いやオリバーさんはソリアの問いに答えず、優しい顔でわたしに手のひらを向ける。
わたしは巾着から三枚のお守りを取出し、オリバーさんの手に載せる。
「『守護』『身体操作』『治癒』、ソリアこれを」
オリバーさんは種類を確認してから、お守りをソリアに渡す。
「これは!」
ソリアは驚き、わたしの顔を見る。
え? なんかまずいのかな?
「それが、さきほどのソリアの質問の答え。そしてワタシが界を渡る理由です」
オリバーさんがニヤリと笑いながら言う。
「オリハルコン……しかも、
「そう。精霊も魔法特性も、
「これを、アヤのご両親が?」
「ちょ、ちょっとわたしにもわかるように説明してよ!」
「つまり、アヤのご両親は史上最高の「魔道具職人」なんですよ」
オリバーさんはそう言って、ヒゲを汚さず紅茶を飲んだ。
それから、オリバーさんとうちの両親の出会いを聞いた。
こちらの世界にあった、魔道具の素材、
オリバーさんは依頼によってそれを探しに地球に転移したけど、なんと、お父さんと、そのころはまだ結婚していなかったお母さんの手によって、アクセサリーとして加工され、オークションで売られてしまったそうだ。
オリバーさんは驚いた。
なにせ、オリハルコンを加工し、様々な効果を付与(エンチャント)できる人はほとんどいなくて、お父さんたちが創ったものは、過去どんなものより素晴らしいものだったんだそうだ。
でも、悪用されたり、コルドリアに危機が及ぶことを心配し、作られたアクセサリーは全て回収した。
同時に、お父さんたちの記憶も消したみたいだけど、後になってどうしても必要な魔道具があって、それをお父さんにお願いして創ってもらった。
その時、両親は結婚してて、わたしが生まれる直前だったみたい。
そっか、わたしの両親は魔法使いじゃなく、魔道具職人だったのか。
なんでそんな能力があるのかは、オリバーさんにもわからないみたいだけど。
「ワタシはオリハルコンの位置を探すことができます。なのでアヤがこちらに来ていることはわかりました。ただ、それがあなたの無事を保証することにはつながらなかったので、移動分ギリギリの
「お父さんとお母さんに無事を知らせることはできますか?」
「一度だけメッセージを送る魔道具を創ってもらい持ってきたです。言葉で五秒くらい、返信機能はありませんです」
オリバーさんに『セイウチ』と同じくらいの金色のメダルを渡される。
中央に小さな穴が10個くらい開いていてマイクみたいだと思った。
「どうやって使うの?」
「握り込むと、音がするそうです。そこから五秒だけ声を送れますです。一回きりですから準備して使ってください」
そんなプレッシャー与えないでよ!
えっと、わたしは元気だから心配しないで、とか?
もういいや、早く無事を伝えよう。
握りこんで、光ったと思ったらピッと音がする。
「わたし、ムト! 十日後に帰る! じゃあね!」
一気に喋り終わると、またピッと音がして、通信の魔道具は、それきりただの金属片になってしまったとわかる。
「ねえ、アヤ「ムト」ってなに?」
ソリアがきょとんとした顔でわたしを見ている。
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