第二話 ムト、お父さんは魔法使いだと思ってます
「
入学式の帰り道、助手席のわたしに運転中のお母さんが話しかけてくる。
「……うん」
「ところで、お父さんのお守り、どこに持ってるの? ペンダントのまま?」
「さすがに小学生じゃないからね、チェーンから外して生徒手帳に入れてある」
「『セイウチの心臓』?」
「うん」
私はポケットから生徒手帳を取出し、中のポケットから金属片を取り出す。
いつも思うけど、なんでこれがセイウチの心臓なんだろう?
直径3センチ、厚みは3ミリほどの金色の円形、斜めの位置、四か所を直角に削り取り、太い十字の形をした「守護のお守り」だ。
小学校の時は、こっそりペンダントトップとして身に着けてた。
生まれたときからずっと一緒の相棒らしい。
「でも、これって身に着けておかなきゃ効果ないの?」
「んー、そんなこともないけど、できるだけ近くにあるほうがいいかな」
「体育の時間とかどうしよう」
小学校でも体育の時間は体操着だったけど、普段は私服ということもあり、細かい持ち物検査もなかった。
その辺り中学では厳しくなるはずだ。
「いつものように靴の中でいいんじゃない? 仕込むわよ?」
「体育はいいや、サッカーシューズなら中敷きがあるからそっちだけお願い」
「はいはい、『セイウチの心臓』と『チョクレイ』でいいのよね」
「うん」
『セイウチの心臓』は守護。
悪意や危険から身を守ってくれるらしいけど、実際は、緊張したときに心を落ち着かせるために使ってる。
身体操作『チョクレイ』は、丸い外形の中に電化製品の電源スイッチみたいな彫刻。
こっちは体の動きをよくする効果だから、着けているときとそうじゃないときの差ははっきりしてる。
その効果は本当にすごいと思ってる。
実際、マラソン大会で、のぞみんにスペアを貸したとき、わたしと彼女でワンツーフィニッシュだった。
それ以外でも、地元のクラブチームでサッカーをするときにはいつもシューズの中に仕込んでもらってた。
もう一つが、治癒の『生命の花』
『生命の花』の模様は、六つの花びらを持つ円が七つ刻まれているとても複雑なものだ。
治癒という名の通り、怪我をした場所にかざすと、あっという間に治る。
切り傷くらいにしか使ってないけど、さすがにこれが普通じゃないモノだというのは、わたしでもわかる。
なので、救急セットを入れた小物入れに隠したままだ。
人前では使えないし、知っているのは、のぞみんだけ。
わたしが持たされている、このメダル型の三つのお守りが、両親が創った魔法の道具。
お母さんがデザインして、お父さんが創る。
わたしとのぞみんの中では、お父さんは魔法使い、お母さんは魔女っていう扱いになってる。
そんなことをあらためて思うと、昔はホントに気にしなかった、わたしにとっての当たり前が、実はとんでもないことなんだと理解できるようになって、正直これらの「お守り」を使い続けていいのかなと悩むこともある。
お母さんが言うには、ムトの本来の力を使っているだけだから問題なし。って笑うけど、実際、体育やサッカーでは、男子にも負けてないし、いろんな大会で賞も取ってる。
「中学になると、勉強に順位が付くから頑張んなさいよ?」
ずっと黙って考えていたわたしにお母さんが嫌なことを言う。
「……ねえお母さん、頭が良くなる「お守り」はないの?」
「あるわよ」
「え、ホント?」
「高速思考とか並列思考とか集中思考とかね。でも創らないわよ?」
「な、なんで? それだってズルじゃないんでしょ?」
「もちろん、その人の脳みそを活性化させるだけよ。でもね、成長途中の、特に中学生くらいの成長中の脳にはちょっと刺激が強いのよね、だから創らないわよ?」
「別に、聞いてみただけだし……」
お母さんが面白そうに笑っているのがなんか悔しい。
でも、体の機能を強化するのはいいのかな? それこそ成長期なんだけど。
「『チョクレイ』を使うのはいいの?」と聞いてみる。
「ん、別に筋力を上げるとか高速化させてるわけじゃないからね、例えばサッカーで大事なのって何?」
「えっと、ボールコントロール?」
「正しくはボディコントロール。『チョクレイ』はね、イメージと体の動きのズレを無くすの、そして必要な動きを、最少の力で最大の効率で行える。だから体力も温存できるし、キックの瞬間も強いボールが蹴れるのよ。身体操作って言ってるけど、実際は身体操作洗練、ドーピングとかじゃないから安心しなさい」
「難しいんだね」
「あのね、お守りの力だけで、サッカーが上手になったんじゃないよ? ムトはサッカーが好きだからたくさん練習したでしょ? 練習した分、体がどんどんうまく使えるようになったんだからね、で、勉強は好き? 頭を使ってる?」
「……使ってません」
「だからね、仮に頭の回転をよくする「お守り」を使っても、元がおバカだとおバカパワーが高まるだけなのよ」
「おバカって……」
「中学生になって心機一転、体だけじゃなく、頭と、そして心もたっぷり使いなさい」
言われっぱなしで言い返せないことに、自分の頭を叩きたくなった。
明日から本格的に始まる中学生活、うまくやっていけるか、また少しゆううつになった。
―――――
「ただいま」
帰宅し、荷物を持ったまま工場に顔を出す。
お父さんへのただいま報告は、欠かさない習慣だ。
「おかえり」
「おお、ムトゥ、お帰りなさいです」
ドアを開けてすぐ右には応接セットがあり、お父さんと、そして折春おじさんがいた。
「折春おじさん、久しぶり!」
どう見ても日本人じゃない金色の目とサンタのような顔面を覆う白ヒゲ、そして2メートル近い長身に黒い厚手のコート。
わたしの大好きな折春おじさんは、ソファの上で窮屈そうな姿勢のまま、優しい笑顔を浮かべていた。
わたしは折春おじさんの横に座ろうとしたけど、もう中学生になったことだし、と、お父さんの隣に座る。
「ずいぶん大きくなりましたです、中、学校ですか? その服も似合っていますです」
「ありがとうございます。折春おじさんも元気ですか?」
顔の深い
もっとも謎なのは年齢だけじゃなく、外見も言葉も、雰囲気も、うまく表現できないけど、普通じゃない。
わたしの想像では、きっとこの人がお父さんとお母さんの
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