第68話
能登幹は僕を見て少しだけ唇を動かしていたが、語る事はなく、無言のまま夜となり、食事も摂らず僕達は眠った。
明くる日。能登幹はベッドいなかった。
代わりに、机の上に一つ、長い手紙が書かれて置かれていた。詳細は省くが、最後に、「君の涙が救いだった」と添えられていた。
結局なにも言えなかった。
そんな想いが胸を締め、手紙を濡らす。
能登幹ともっと話をしたかった。もっと長く同じ時間を共有したかった。僕は奴についてほとんど何も知らないまま友人となり、別れを迎えた。もっと素直になっていれば、深く分かり合えたのに。僕はずっと、奴に僕自身を見せられなかった。
学校へ行くと桑谷女史が挨拶にやってきたが、能登幹について触れなかったあたり、すっかり消沈していた僕に気を遣ったんだと思う。彼女にもそんな一面があるんだなと、面白くて感じた。
それから僕の学校生活はずっと曇り空のように、どんよりとしたものだった。たまに人と遊んだり、食事をしたり、男女交際などをするようになっていたが、正直よく覚えていない。ただ、何をしていても能登幹の影がチラつき、楽しくなかったのははっきりと感覚の記憶として残っている。
僕は都会に出て自由に生きるつもりが、ずっと縛られてばかりで、気が付けば三年が経っていた。卒業後は大学へ行く事に決まったが(親は金ばかりが飛んでいくと不機嫌だった)、花の学生生活も魅力が薄く、ただのモラトリアムになりそうで、溜息が尽きなかった。
夢も目標もなく、怠惰を拗らせている中、手紙が届いた。差出人は能登幹だった。
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