第11話
そんな僕に対して能登幹は冷ややかな空気を醸し出していたが知らないふりをして長い一週間を過ごした。男女混ざり合っての遊興などそう望めるものでもないし、普段能登幹の面倒を見ている事で付与された役得だと考えればそれをふいにするのも損であるため、俄然行かぬわけにはいかなかった。桑谷女史のやかましさには些か閉口するが他の女連中は中々に粒揃いなのである。またとない機会に僕は、初夏のアバンチュール成就なるかと健気に夢を見ていたのである。
「そんなに女の子が好きかい?」
出かける前日に、能登幹がそんな事を言った。
「そりゃ、嫌いな男はいないんじゃないかい? 加えて僕らは青いジュブナイルじゃないか。女の色に惹かれるのは当然だし、むしろ、求める義務があるといっても過言でもないんじゃないかな」
「ふぅん」
素っ気ない返事であった。いつもは聞いてもいない事を喋り放題喋るくせに、なんとも拍子抜けする声が一つ。明らかにおかしな態度で、これはやはり能登幹は女が嫌いなのだなと納得しあえて追及するのはやめておく事にしたのだが、そのかわり用心して釘を刺す事にした。
「まさか君、来ないなんて事はないだろうね? 土壇場でキャンセルだなんて許されざる大罪だよ?」
僕の冗談に対して能登幹は深い溜息を吐いた。さすがに立腹したが、つまらない原因で諍いを起こすのも憚られると沈黙。相手の出方を伺うと、珍しく愚痴めいた言葉が聞こえた。
「君が行くから行くけれど、本当は嫌なんだ。桑谷さんも、その友達も、僕はあまり好きじゃない」
能登幹が人の悪評を述べるなどそれまでになく異様とも思えたが、その邪険を深く考えず物臭に相槌を打ち、「分かる」と答え、僕は話を続けた。
「桑谷女史は口が過ぎるからね。でも、他の娘達だって、多少はマシにしても似たようなもんだ。女なんてのはそんなもんだよ」
知ったような口を聞いたが、この時僕はさも自分が成熟しているかのよう、努めて偉そうに口上を述べたような気がする。女を知らないくせに女を語るなど滑稽そのものだが、当時はそれがいなせだと勘違いしていた。
能登幹はそんな僕の擬態を見破ったのか、静かに呟き、微笑む。
「君は女の人の前だと無口になるのにね」
「うるさい」と、一言返す。
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