第12話

 結局、能登幹は最後まで嫌がりながらも観念してもんじゃ焼き屋に行く事になった。これには桑谷女史他、参加した女生徒達も有頂天となり「愛洲君が連れて来てくれてよかった」というあくまで付属品だと念押しされた謝意を示された。あまりに露骨な扱いに怒る気力も湧かなかったが、一夏のアバンチュールへの道は閉ざされているのだな笑顔を装いながらも落胆。どうせ俺は女にとって魅力がない。


 待ち合わせの場所に着くと、既に皆集まっていた。確か約束時間の五分前くらいだと思うが、僕を含め、律儀だなと思った。



「ちょっと早いから、先に雑貨屋さんでも見ていかない?」



 集合早々発せられた桑谷女史の言葉に女子達から賛同の嵐が生まれた。是非の権利なく取り込まれた僕達はアベニューに運ばれ、けったいな横文字の並ぶ店舗に入店。煌びやかではあるが実用性に欠ける生活用品や小物を眺めると無駄な意匠に虚無感が浮かぶ一方で、これが都会のスタイルかと圧倒される。鏡一つ取っても無駄な突起や捻りなどが加工されているのを見ると、地元の金物屋で売っていた櫛なおしなど猿まわし用にこしらえた小道具のようにも思えた。今まで洒脱の精神を育んでいなかった僕は、豪華絢爛たる無意味な工匠に一定の評価と感動を覚えたのだが、女子一同らの次の言葉により自らの感性を握り潰す事にした。



「ダサいね。ダサいわ」




 女子達が自分達の価値観を語り合い盛り上がっているところ、爪弾きにされていた僕は肩を叩かれる。


「友くん。いいかな」


 細い割にしっかりとした肉厚を感じるその手の持ち主は能登幹だった。こいつは華奢なくせに力がある。


「なんだい? 生憎だが僕はこの手の物に対しては造詣が浅いんだ。何を聞いたって無駄だぜ」


「そうじゃないよ」


 能登幹はそんな風に笑いながら、一つの指輪を掲げる。銀色の金属に穴が空いただけの単純なデザインが、僕の顔を屈折させ映していた。


「素敵じゃないかい? 買ってくれないかな」


「たかる気か。君、別に貧乏じゃないだろう」


「君が僕を付き合わせたんだ。これくらい強請る権利はあると思うけど?」


「……」


 それを言われると僕は何も言い返せず、良心の呵責に苛まれながら指輪を引ったくり値段を見た。手書きのタグには五百円と書いてあり、買えない額ではない。


「分かったよ。買うよ」


 僕がそう吐き捨てると、能登幹の微笑は満開となり、「ありがとう」と手を握ってきた。気色悪いから止めろと言っても離さず困っていると、気付いた女子達が好機の横目でこちらを捉え、大変主張の激しいヒソヒソ話を始めるのだったが、その中で一人、桑谷女史だけが、少し怪訝は、不愉快そうな表情を形作っていた。

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