第20話 エヘッ! 20

「やって来ました! イギリスの女王就任式!」

 遂にアン王女がイギリスの女王になる時がきた。

「私がイギリスの女王になるのね! ワッハッハー!」

 有頂天のアン王女はほくそ笑んで笑っていた。

「それではイギリスの女王就任式に先立ちまして、イギリスの国家を斉唱いたします!」

 王位継承の儀式に国家の斉唱は付き物だ。

「それでは歌ってもらいます歌手は・・・・・・おみっちゃん。」

 なんと国歌斉唱を行うのはおみっちゃんだった。

「ドクン。緊張するな。」

 大役を任されたおみっちゃんは緊張していた。

「これでイギリスは私のものだ! ワッハッハー!」

 アン王女は笑いが止まらない。

「それにしてもシャーロットはおかしな条件を出したものだ。イギリス女王の座は譲るから、就任式の国歌斉唱の歌い手を決めさせてほしいとは?」

 これがシャーロットの奥の手だとはアン王女は知らなかった。

「1番! おみっちゃん歌います! 曲はイギリス国家!」

 おみっちゃんが歌を歌い始める。

「耳栓用意!」

 シャーロット、女将さん、ダイアナは耳栓をする。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。

「あ、あ、頭が割れる!? これが歌なの!? なんて酷い音痴なの!?」

 アン王女はおみっちゃんの歌声を聞いて藻掻き苦しむ。

「私に国歌斉唱の歌手を決めさせる権利を与えたのはミスでしたね。アンおばあ様。」

 そこに耳栓をしてピンピンしているシャーロットが現れる。

「謀ったな!? シャーロット!?」

 アン王女はシャーロットの企みだったと悟った。

「気づくのが遅かったな! 恨むんならおみっちゃんを呪うがいい! ワッハッハー!」

 私ではないから。というシャーロットの心の声が聞こえてきそうだった。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみっちゃんは気持ち良く歌い続ける。

「イギリス王国に栄光あれ! ギャアアアアアアー!」

 アン王女は粉々に崩れ去った。

「ご清聴ありがとうございました! ああ~気持ち良かった! エヘッ!」

 歌い終えて満足なエヘ幽霊。

「あれ? 誰もいない? もうイギリス女王の就任式は終わったのかな?」

 おみっちゃんが歌った後には誰も生きていられなかった。

「それではイギリスの女王就任式を行います!」

 なぜか司会の女将さん。

「あら? 今からなのね。」

 おみっちゃんは就任式に参加する。

「それではイギリスの新しい女王に登場してもらいます! シャーロット女王です!」

 女王の姿をしたシャーロットが現れる。

「シャーロット!? あれ? 新しいイギリスの女王になるのはアン王女じゃなかったのかな? まあ、いいや。」

 細かいことは気にしないエヘ幽霊。

「私が新しいイギリスの女王である!」

 シャーロット新女王が言い放つ。

「良かった! 本当に良かった! これで私も安心して天国に行けるわ!」

 ダイアナは涙を流して孫娘の女王就任に感動している。

「これにてイギリスの女王就任式を終わります!」

 こうして無事にシャーロットはイギリスの新女王になった。


「ありがとう。女将さん。」

 シャーロットは女王になれたことを女将さんに感謝する。

「どういたしまして。これもシャーロット、あんたの運命さ。頑張りなよ。」

 女将さんもシャーロットの女王就任を喜んだ。

「良かったね。シャーロット。私の可愛い孫娘よ。」

 ダイアナもシャーロットの女王就任を祝う。

「ありがとうございました。ダイアナおばあ様。」

 シャーロットもダイアナに祝ってもらって嬉しい。

「これで思い残すこともないので私は天国に旅立とうと思います。ありがとう。シャーロット。ありがとう。女将さん。」

 ダイアナは天に召されていく。

「ダイアナおばあ様! ありがとう! 天国でお父さんとお母さんによろしくね!」

 シャーロットは感謝してダイアナとの別れを終える。

「あの・・・・・・私のことを忘れてませんか?」

 おみっちゃんが顔を出してくる。

「おみっちゃんがいないと平和ですね。」

 シャーロットの素直な気持ち。

「だろ? 私もおみっちゃんには茶店の看板娘として以外は苦労してるんだよ。」

 女将さんの本音。

「もしもし!? 本人がいるんですよ!? 無視しないで下さい!? 私の相手をして下さい!?」

 自身の存在をアピールするおみっちゃん。

「仕方がないだろう。あんたは幽霊なんだから。」

 おみっちゃんは幽霊であった。

「そうでした。私は既に死んでいるんでした。エヘッ!」

 いつも明るく笑顔で元気に前向きなエヘ幽霊。

「シャーロット! 女王様をがんばってね!」

 おみっちゃんはシャーロットを笑顔で応援する。

「ありがとう! おみっちゃん! 助けてくれて!」 

 シャーロットもおみちゃんとの友情に感謝している。

「私たちはいつでもお友達だよ。」

「ええ。私たちの友情は永遠に不滅です。」

 おみっちゃんとシャーロットは力強く握手するのでした。

「さあ! 私の夢を叶えるために魔界に行かなければ!」

 おみっちゃんの夢は江戸で歌姫になることです。

「魔王になれば江戸まで案内してくれるのだ! エヘッ!」

 そのために魔界に行って魔王になるというエヘ幽霊。

「でも、魔界にはどうやっていくんだい?」

 そもそも魔界はどこにあるんだろう?

「バハが言っていたけど、魔界はイギリスの地下にあるそうよ。」

 新たな都市伝説。

「え!? そんな話は初めて聞いたけど!?」

 イギリス女王のシャーロットも知らない話。

「はい。私も初めて話しました。エヘッ!」

 無駄口の減らないエヘ幽霊。

「相変わらずだね。おみっちゃんは。」

 呆れる女将さん。

「よく言われます。エヘッ!」

 いつも明るく笑顔で元気に前向きなエヘ幽霊。

「じゃあ、私は茶店の商売が忙しいから、魔界には一人で行っとくれよ。」

 女将さんは魔界に行くつもりはなかった。

「ええー!? 私一人で行けって言うんですか!?」

 一緒に魔界に行ってくれると思っていたおみっちゃん。

「なんで私が行かないといけないんだよ? 私は行かないよ!」

 断固拒否する女将さん。

「魔界に行けば、お金がいっぱい落ちてますよ。お宝や伝説の財宝がシコタマありますよ。」

 悪魔の囁きをするおみっちゃん。

「行こう! 魔界へ!」

 女将さんは銭の誘惑に負けた。

「穴を掘れ! 魔界に繋がる穴を掘れ!」

 女将さんは魔界を目指すことにした。

「はい! 掘らせていただきます!」

 イギリスの地面を掘り始めたおみっちゃん。

「やめてよ!? バッキンガム宮殿の庭に魔界と繋がる穴を掘らないで!」

 有難迷惑のシャーロットは必死におみっちゃんのスコップを止める。

「無理。だって魔界に行かないと江戸で歌姫になれないもの。」

 おみっちゃんは夢を諦めない。

「そうだよ。魔界には銭が私を待っているんだよ。」

 女将さんも守銭奴パワーを発揮。

「分かった! 魔界に行く簡単な行き方を教えるから、穴を掘るのはやめて!」

 実はシャーロットは他に魔界に行く方法を知っていた。

「早く言ってよ。無駄な労力を使っちゃった。エヘッ!」

 照れ笑いをするエヘ幽霊。

「キングス・クロス駅から異世界に行けるわ!」

 ハリーポッター的にはそうである。

「じゃあね。シャーロット。」

「強く生きるんだよ。何かあったらいつでも駆けつけるからね。」

 そういうとおみっちゃんと女将さんは去って行った。

「あいつら本当に友達か!?」

 シャーロットは孤立無援になり、更に人間不信になった。

「さあ! 魔界で銭が私たちを待っているよ!」

 女将さんの解釈。

「待ってろ! 魔界! 私が江戸で歌姫になるために魔王にならせていただきます!」

 おみっちゃんは夢を諦めない。

「キャッハッハー!」

 異国の地で日本の妖怪の笑い声だけが木霊する。


「やって来ました! キングス・クロス駅!」

 おみっちゃんたちは駅にたどり着いた。

「この駅のどこかに銭に繋がる道があるんだね!」

 女将さんの目線はあくまで銭目線。

「夢に繋がる道ですよ! エヘッ!」

 きれいにまとめるエヘ幽霊。

「でも、どこが魔界に繋がっているのか分かりませんね。」

 しかし駅のトイレや倉庫を探しても魔界に繋がる道は見つからなかった。

「おみっちゃん! 分からない時はどうしたらいい?」

 女将さんはおみっちゃんに質問する。

「駅員さんに聞いてみます! エヘッ!」

 おみっちゃんの模範的な回答。

「すいません。魔界にはどうやったら行けますか?」

 おみっちゃんは駅員さんに尋ねてみた。

「10番3分の2ホームから魔界に行けますよ。」

 親切な駅員さんは魔界への行き方を教えてくれた。

「ふざけるな! おまえ舐めているのか! 私が夢を叶えるのを邪魔する気だな! 許さんぞ! 呪い殺してやる!」

 オーバーアクションをしてみるおみっちゃん。

「ええー!? 本当ですよ!? ほら! 見てください! あそこの女の子! 魔界の魔女の専門学校に通っているんですよ!」

 駅員さんは10番3分の2ホームに消えていく女の子をおみっちゃんに見せる。

「消えた!? あんな所に私の夢の入り口があったのね!?」

 その光景を見て驚くおみっちゃん。

「ありがとう! 駅員さん!」

 おみっちゃんは何事もなかったかのように10番3分の2ホームに駆けて行く。

「2度と来るな!」

 その後、駅員さんは除霊を行ったらしい。

「女将さん、ここから魔界に行けるそうですよ。」

 おみっちゃんと女将さんは10番3分の2ホームにやって来た。

「いくよ! おみっちゃん! 銭の世界へレッツ・ゴー!」

 おみっちゃんたちは10番3分の2ホームに飛び込んだ。

「今度こそ! 今度こそ! 私は江戸で歌姫になるんだ! 私は夢を叶えるんだ!」

 おみっちゃんの夢はどこまでも果てしなく。

 終わり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

茶店の歌姫2 渋谷かな @yahoogle

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ