02 国外追放と王国内情

 私は剣先をさげると、近くにいる若い兵士に剣の柄を向けて返す。

 恐る恐るであるけど、若い兵士はその剣を受け取った。


 オジサン兵士が再び歩くので私もその後についていく。

 先ほど剣先を突きつけたオジサン兵士が背中越しに話しかけてきた。



「怖くないのか? もしくは恨みなどあれば我々にはそれを受ける義務がある」

「真面目ねぇ、言いたい事はたくさんあるけど、もう子が出来てるんでしょ?」

「う、うむ……」

「あと、本当に処刑じゃないのよね?」

「それは誓う。………………信じてくれ。としかいいようがないが」



 私自身は裏切られたというより騙されて胸糞悪いが、これで私と婚約して、あの子を側室ってのも腹が立つ。

 逆にあの子が正室になり、私が側室ってのも、馬鹿にしている。

 新婚旅行の最中にアーカル……様。いいえ、もうアーカルを崖から突き落としてしまうかもしれない。


 智将と呼ばれたアーカルにしては考えたじゃない、思わず拍手を送りたい。

 そんな事を考えていると、どうやら扉の前で止まった。



「ここが転移の門の場所?」

「違う、囚人の着替え室だ。国外に追放するのにドレスのままは困る…………いや動きにくく困るだろう」



 私は姿を確認する、白を基準としたドレスで下はもちろんスカートだ。

 さっきの蹴り、もしかしたら見えたかもしれないわね。

 私が先ほど蹴り飛ばした若い兵士をみて「先ほど中身見た?」と、スカートをたくし上げると若い兵士は顔を背ける。



「これからどうなるかも知れないのに呆れた奴だ」



 振り返りオジサン兵士を見る。



「ご忠告どうも」

「そ、その暴れないで欲しい」

「暴れないわよ……」



 暴れるならさっき暴れている。



「それでは皆様ごきげんよう」



 扉を入ると、ご丁寧に布の服に布のズボン。俗に言う村人セットが置かれていた。

 普通の貴族なら侮辱だ! と叫ぶかもしれないが、幼い頃から祖父や兄とともに野山を駆け回った私には、別に服装などなんでもない。

 高価なドレスを脱いで服を着替えると廊下へと戻った。



「これで宜しいでしょうか?」

「世話をかける。こちらだ」



 今度こそ転移の門という場所についたらしい。

 百人は入れそうな部屋があり、その床に大きな魔方陣が書かれている。



「これが王家の緊急用脱出魔方陣……」



 誰も私の呟きに答えてくれないけど、間違いないだろう。

 中央に立たされると、オジサン兵士がよって来る。



「まさかオジサンも一緒に転移する?」

「…………ふっ、今から追放される人物とは思えないな、さすがコーネリア家の娘だ。本来は何も持たせるなと命令を受けているが、我々の団からの餞別と思って欲しい」



 頑丈そうな剣と、お金が入った袋、携帯食料が入った袋をそれぞれもらう。

 腰ベルトにそれぞれつけると、やはり安心する。

 


「でもいいの?」

「暴れる事も出来たはずなのに、荒事を避けてくれた礼と思って欲しい」

「では」



 遠慮なくいただくとしよう。



「魔方陣の準備が出来るまで時間かかるのね」



 先ほどの兵士達とは別に、杖を持った人達が何人も入ってくる。



「あの人達は?」

「王宮魔導師だ、転移の魔法は魔力を消費が多いと聞く」

「へえ、はじめてみた。その私一人を追放するのに大げさすぎない? 別に追放って言われたら勝手に国出て行くわよ」

「いくら豪傑と呼ばれていても今夜中に海は渡れまい」



 それはそうですけどー。

 あと一つ正したい。



「あのね……さっきの子もそうだなんけど別に豪傑ってわけじゃ」

「………………どこの世界に女性でありながら剣術試合にでて優勝する女がいるんだ」

「あら、私の相手は全員【女で子供だから、勝ちを譲った】って言ってましたよ」

「…………その相手達はなぜか【後日全員不慮な事故】を負ったのは関係あるか?」

「無いわよ」



 即答しておく。

 オジサン兵士の目が細めになり私を見てくるが、答えは変わらない。



「まぁそれにだ、途中で反旗されても困るし、道中の監視の人員もこの魔方陣なら省ける」

「反旗もしないですし」



 準備が出来ました。と私達に声がかかる。



「さて、これまでの非礼を許して欲しい」

「いいわよ、王子が叫んだ時に貴族の身分剥奪だったんでしょ」

「ああ。それでもだ、明日にはコーネリア家と王家との確執があるだろう」

「そういうのは上に任せておけばいいのよ、オジサンだって兵士なだけでしょ」

「確かにな、それと最後にもう一つ」



 なんだろう、魔方陣が光っているんだし早くして欲しい。



「クリス・コーネリア。もしかして前々から貴族を辞めたがっていた、それとも王子をわざと怒らせるような事をしていたか?」



 …………腕を組んで考える。

 別にそういう事はない。

 あるとすれば、密室で迫ってきた時に何度も断ったぐらい? 私が答えないのでオジサン兵士がやれやれと魔方陣から離れていく。

 


「あっそうだ。オジサン」



 大声で言ったものだから、大量のオジサンが振り向いた。

 先ほどのオジサン兵士が代表して「俺の事か?」とたずねて来る。



「そうそう、実家の連絡だけど、適当にアーカルを殴って追放したって事にしたほうがいいと思うわよ。少しは父親も納得すると思うから」



 オジサン兵士はしばらく固まった後に豪快に笑いだす。

 その声を聞いて私の視界は一瞬で切り替わった。

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