03 クリスと帝国領

 最初は闇しかみえなかった。

 目が闇になれると、星空の光で私のいる場所がわかっていく。



「風が暖かい……」



 先ほどいた場所より風が暖かく、思わず呟いてしまった。

 王国はもうすぐ雪が降ると言われていたのに、この風は夏に近い。



「クリス・コーネリア。いいえ……これからはただのクリス。貴族の腐った……いや、腐ってもいないわよね…………うーん。

 と、とにかく自分の事は自分でする、それが望んでいた生活」



 とりあえず、夜空を見る。

 雲ひとつ無い夜空で星々の光がまぶしいぐらいだ。

 風は穏やかで暖かく凍死はしない。はず。

 魔物の心配はあるけど、人が沢山とおった道が見えるので、襲われる心配は山の中よりは少ない。



「って事で進みますか」



 右も左もわからないのでとりあえず、どちらかの道を進む。

 オジサン兵士の言う事が本当ならここは帝国領。王国とはちがって実力がある人間が出世する。

 だから冒険者もこぞって帝国へいく。

 と、帝国出身のメイドから話を聞いた事がある。



 歩く事しばらくすると馬の悲鳴や人の悲鳴が聞こえてきた。

 すぐに金属のぶつかる音。

 遠目で馬車が燃えているのが見えた。


 私は全力で走る。

 数人の人間が黒い影となって倒れている。

 その大きな影を作るのは人間の何倍もあるゴブリン……いやオークだ。

 数はおそらく四体。



「退きなさいっ!!」



 私は大声を上げるとオークの注意をひきつける。オークが振り返った瞬間にもらった剣使い一気に切り上げた。

 腕を切り落とし剣の性能を確かめる、これならいける!


 体を半回転させて片腕の無くなったオークを切り、その大きなお腹へと蹴りをいれる。

 吹っ飛ぶオークを背にして二体目も切りつけた。



「次っ三体目!」



 次のオークを背後から切ろうとすると、オークが勝手に横に倒れた。

 その影から剣をもった男性が私に切りかかり、私も男性に切りつける。

 剣と剣がぶつかり小さな火花を散らして消えた。



「ちょっ!」

「くっ!」



 その人間は力を緩め離れると、すぐに連激を繰り出してくる。

 私もとっさに剣でガードすると、燃えている馬車の光で、その人間と目があった。

 髪は黒髪で燃えるような赤い瞳が眉をひそめ私と視線が合う。



「人間か……?」

「どういう意味よっ! ってか貴方私が人間なのを確認して攻撃してきたわよね!?」



 お互いに、力を緩めて数歩下がる。私は周りを見渡すと残った魔物がいないのを確認した。

 残されたのは、焼けた馬車に殺された馬。

 無事な馬車と駆け寄ってくる人達が私達を囲む。

 黒髪で赤い瞳の青年が私にを黙って見た後に口を開く。



「女……何者だ」

「まずは名前を交換するのが礼儀じゃないの?」

「…………ジョンだ」



 偽名だろう。黒髪の男がジョンと自己紹介をしたら、駆け寄ってきた男性達がジョンって誰? ジョン、そうだジョンどうする? とか声を出しているから。

 私に聞こえてるのにもかかわらずジョンで通すらしい。



「まったく……私はクリス。帝国は実力主義と聞いて、田舎からでて冒険者になりたくて道に迷った。出来れば町はどっちか教えて」



 嘘は言っていない。

 帝国人がよくグラッツ王国の人間は田舎者だ。って言うし。

 周りの人間から、新種の魔物じゃねーの? と聞こえてくるので、声のほうを見ると声が収まった。



「金髪で人間離れした女……名前がクリス……まさかな……」



 黒髪のジョンが何か呟いているので聞いてみる。



「何が?」

「いや、人違いだろう」

「あら、私に似てる人がいるとか楽しみね」

「すむ世界が違う人間だ、会う事はないだろう。

 礼は言う、フランベルドはこの道をまっすぐ行けば朝までにはつく。

 俺達は片付け後、ここを離れ出発する」



 私は腕を組んで考える。

 フランベルドといえば帝国の首都。

 そう、フランベルドの場所はわかった。

 で、問題はこの変な黒髪の男達がどこに行くのかである。

 フランベルドにいくより、この変な集団について行ったほうが楽しそうな事が起きるんじゃないかと、私の感が言っている。



 ちらっと目を開け視線をとばすと、黒髪のジョンと目があった。



「やだ。見つめちゃって照れるわね」

「…………お前が新種の魔物か見極めていた所だ」

「…………切るわよ」



 私とジョンがにらみ合っていると、長身の男性が間に入ってきた。

 ジョンの頭を無理やり手で下げると私に笑みを浮かべてくる。



「まぁまぁまぁ。ラ……ジョン冗談もそこそこに。クリスさんでしたよね? こっちの団長がすみませんね。名前は言えないのですが我々は調査団みたいな物でして、この先にある自然発生したダンジョンを調べる先行隊と思ってくれればいいです。ですから貴女のような美しい女性が一緒だと危ないのです」

「やっ、本当の事を言われると照れるわね」

「オークを一撃で殺すような……」



 ジョンの不満そうな声は聞かなかった事にする。



「聞いた所、まだ冒険者ギルドにも入ってなさそうですし、我々としても貴女をフランベルドへ送りたいのは山々なんですが、先ほどの魔力による閃光。野良ダンジョン。幸いフランベルドからここまでは安全と思うので一人でも――」

「ん? 閃光?」

「ええ、この星空なのに突然現れたカミナリらしき閃光です。強大な魔力の流れを感知して、オークが突然暴れだしたのもその影響でしょう。

 いやはや仕事が増えて困ってます。おや? どうしました?」

「え? 別になんでもないわよ?」

「はぁ、顔色が優れないようなので」



 閃光、カミナリ。なんでもいいけどそれって私が飛ばされた魔法よね。

 うん。絶対に私が関係ある。

 しかも、それが王国が関わっていたとバレると不味いわよね。



「じゃ、じゃあ道も教えてもらったので私は行くわ。ごきげんよう」

「おや、そうですか? お礼も何も、少ないですが――」



 私は名前も聞き忘れた長身の男から逃げる。

 背後で呼び止められた気もするけど、早足で歩くとその声も小さくっていった。

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