豪傑令嬢は追放されても落ちぶれない~聖女の立ち位置と王子は譲るんで自由をください~

えん@雑記

01 クリス追放を言い渡される

「クリス・コーネリア。悪いが豪傑令嬢ごうけつれいじょうとは婚姻は出来ない!」

「はい?」


 最初は誰に言っているのかと思った。

 クリス・コーネリアは私の名前で、年齢は二十歳。髪は腰まである金髪で得意な武器は剣……と自己紹介じゃなくてっ。思わずぽっちゃり、もとい王子アーカル……様の顔をマジマジと見た、冗談を言っているような顔ではない。


 今日は私とアーカル……様の婚約パーティー、その目玉である主賓しゅひんとして招かれてる。


 はずだった。


 王子アーカル……様の隣には、いつの間にか可愛らしい女の子が立っていてアーカル……様は「皆の者!」と大声をだして注目を集めだす。



「この隣り呼び寄せた女性は聖女とよばれる女性だ、わが国の未来を――――」



 話が長い。

 要約すると、聖女であるこの子と結婚するから婚約内定だった私とは結婚できない。

 そんな馬鹿な話が通るのかと思えば、相手は王子だから通る。

 さらに、私は豪傑令嬢という立場らしく、私がこの国にいると厄災が増えると言い出した。

 例として最近増える魔物の数、自然発生した高難易度のダンジョン、その説明に周りの貴族がそういえばと頷いていく。

 で、最後に私は国外追放と言い渡された。

 まぁ振った女性は近くにおいて置けないわよね。



「何か言ったらどうだ」

「はぁ、それは、どうもありがとうございます」

「何っ!?」



 思わず本音が出た。

 両親には悪いけど、別に王族になりたいとも思ってないし。


 家は兄が継ぐだろうし、まだ十歳の弟もいる。今回の婚約だって王家側からの打診が来て両親がしぶしぶ承諾したと聞かされている。

 それでも、家が決めた結婚とは言え、私もアーカル……様を好きになろうと努力はした。


 普段の君を見せてくれ。って言うから剣の模擬戦もしたし、乗馬の競走もした。

 二十キロのおもりを背負っての基礎体力アップも一緒にした。

 ついでに剣が苦手なのかとおもってマキ割り千本ノックの競争もした。


 アーカル……様は毎回自称【手加減】をしてくれて、私に花を持たせてくれた。

 他に趣味はないのか? と、剣の練習後に赤い顔で聞かれ、私も好きで巷で人気の冒険活劇の本だって貸したのに。

 タイトルは「聖女と王子と悪役令嬢」いや「悪役錬金術師に転生してました」だったかしら? いまさら本のタイトルは関係ないか、私が追放になったのは間違いない。



「グリフォンの団! この豪傑で私を騙してたいた悪女をひっとらえよ! て、抵抗するなよ?」

「えっ! しても良いんですか!?」



 思わず聞いてしまった。

 私を捉えるために集まった兵士達数十人が半歩下がった。

 冗談よ、冗談。



「それでは失礼します。よき婚約を」



 私としては祝福の笑みを浮かべたつもりなのに、なぜかアーカル……様の婚約者が豪傑さんに、にらまれました」と泣き出した。

 別に豪傑ではない。


 代々コーネリア家は剣士を多く輩出する家として名を連ねている。兄もそうだし、私も小さい頃から剣を握っていただけだ。


 王国では、貴族本人が剣を握る事は少ない、しかも女だ。

 ついたあだ名が「豪傑」だから今回の婚約だって貴族の噂話で豪傑クリス賢士王子足したらちょうどいいですな。と、耳にはしている。

 でも豪傑はないわよね、せめて敏腕ぐらいにしてほしい。


 周りの貴族の視線をよそに、兵士に連れられてパーティー会場を出た。

 長い廊下を兵士につれられて歩く。

 処刑はされないと信じたい、では逃げる?



「歩くのは疲れはしないけど…………どこに連れて行くのかしら」



 兵士達は返事をしない。

 職務に忠実なこと。

 仕方が無い・・・・・ので背後の兵士を蹴り飛ばし、吹っ飛ぶ力を利用して腰の剣を奪う。

 奪った剣を振り返った先頭の少し年取った兵士の目の前に突きつける。



「実家は知っているのかしら?」



 周りの兵士が私に向けて一斉に剣を抜くけど、何人かの兵士の剣が震えている。

 剣先を突きつけられているオジサン兵士が、私の剣を手でどけた。

 おお、すごい…………動じないとか。



「クリス・コーネリア。冗談はよしてもらいたい。いかに貴女が剣の腕が立とうとも、数十人の兵士に囲まれて逃げられるとも?」

「試してみる? 案外できそうなきもするけど。質問ぐらい答えてほしいなーって」

「…………質問に答えよう。貴女の実家にはまだ情報は言っていない。貴女は今日のうちに転移の門を使い国外に出て行ってもらう。

 許してくれと言わないが、わかって欲しい。聖女のお腹には既に子がいるのだ」



 聖女のお腹には既に子がいるのだ、いるのだ、いるのだ…………。

 頭の中で何度か繰り返して、ようやく納得した。

 簡単な話、私と婚約していたけど他の子とやる事やったら出来ちゃったって奴よね。



「はぁ…………だったら、最初から素直に話してくれれば暴れないわよ」

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