-第十話- 草原の蒼き狼

華歴二百三十三年 秋 黒龍山塊


 「おい?!物資の補給が来ないとはどういう了見だ?!!」


 天幕に南征将軍の怒号が響き渡る。


 南征将軍、日頃は落ち着きのある、めったに怒鳴り声などは出さない、ただの権勢欲に塗れた名門武閥出身の俗物、というのが兵士からの一般的な評である。

 その俗物将軍が珍しく怒声を部下に浴びせている。


 確かに稀なことではあるが、近侍の者達にとって南征将軍の怒りの理由は明白であった。


 南征将軍という男、多少の出来事には動じない、心動かされない、何も考えていない人物だが、実は自分で一度でも立てた予定が狂うことには我慢が出来ない種類の男だったのだ。


 その為人を示す一つの出来事がここにある。


 それは南征将軍が幼少の頃の話だ。


 彼は代々上級将軍職を歴任してきた武列の中でも上位に位置する家の嫡男に産まれた。


 ちなみに、華帝国には朝堂に於いて、南面する皇帝を正面に、向かって右側に武官が並び、向かって左側に文官が並ぶという習わしがある。

 その理由としては諸説があり、正確な理由は今代には伝わってきていない。

 朝堂には西側に皇帝の入退出口があるので、いち早く武力を所持する武官を観察するため、だとか、文官に気付かれずに武官へ粛清の合図を送るため、だとか様々な噂が今日にも伝わる。


 閑話休題。


 ともあれ、その武列の名門に生まれた南征将軍は幼いころから、何度も些細な出来事(普通の感覚を持つ華の人間にとって)で人を殺めてきたことがある人物だった。

 一度は、馴染みの料理屋で魚料理が無かったことで店主を殺し。

 一度は、いつも使う屋敷の厠が修繕中だったことで、身近にいた女官を殺し。

 一度は、視察途上の農村で祭りが行われていたことで、車中での睡眠が妨害されたとして村長を殺した。


 とにかく、彼は自分で立てた予定を狂わされることを何よりも嫌った。

 予定さえ立てていなければ、何が起きても「ああ、そうか」の一言で済ませるのにだ……。


 そんな南征将軍が数か月ぶりに、癇癪を起したのだ。

 しかも陣中においてである。


 (これはまずいぞ?若の癇癪を如何に鎮める?)

 (如何にと言われても……ここまで補給など何度も遅れて来ただろう?今回に限って何故だ?)

 (随行小姓に聞いたのだが、ほれ、ひと月ほど前に族滅した部族があったであろう?肌の色が妙に白かった……)

 (おお!随分と珍しい西方の品々を蓄えておった奴らだな?)

 (奴らか!いやぁ、奴婢に至るまで西方人との混血であったのか、女だけでなく、男も随分具合が良くて、ついつい夜更かししてしまったあの時か?)

 (……お主の下半身事情など聞きたくもないわ!)

 (おお、すまん、すまん!それで?)

 (……どうやら、そこの族長の娘を若が気に入ったらしくてな?今日届く物資に、その娘の機嫌を取るために玉だかなんだかを忍ばせておいてもらったそうなのだよ。兵部尚書にな)


 「「ああ、なるほど!」」

 「何がなるほどなのだ!俺の物資は届かないのか?!今日届く予定ではなかったのか?!」


 事情通の将校が齎した情報に、つい、心の声が出てしまった南征将軍の幕僚たち。


 「真、けしからん事態でございますな!陣中のこととはいえ、予定していた補給を滞らせるとは!某めが靺地まで行って担当者を成敗して参りましょう!」

 「そ、そうか……お前が行ってくれるか……よ、良し!頼むぞ!」

 「はっ!お任せあれ!」


 こんな事態も何のその。

 昔から南征将軍家に仕えている一人の将校が進み出て、見事に事態の収拾を図った。


 (こう返事しておけば、三日は持つだろう。俺も急いで靺地に行ってくるが、ここは靺地からだいぶ西、峠をいくつか越えての高原地域だから戻ってくるまでには時間が……)

 (任せておけ、最初の何日かの猶予さえ若の頭に入れておけば、その後はそれほど癇癪は起こされぬ)

 (そう、そう。後のことは任せておけ!)

 (では、頼んだぞ?)


 南征将軍の軍中の将校は出来た人物ばかりである。

 今も、恭しく将軍に頭を垂れながらも、将軍本人には決して聞こえぬ小声で、仲間内の相談事を進めている。

 ただ、帝国数千万人民としては、彼らの能力が責任回避に特化するのではなく、正しく軍を動かすことに秀でていて欲しかったところである。


 この時、南征将軍の下には、大きく四つに別れた清討伐軍の内、最大規模の五万八千の兵がいた。

 身分の上下と兵力を考えるのならば、四珠皇子の軍営こそが最大であるべきとおもわれるものだが、この場合はそうではない。

 四つの軍の中核軍の駐留地を考えると自ずと答えが見えて来る。


 つまり、四珠皇子、兵部尚書、東征将軍は淮河の北に位置する都市の軍であり、南征将軍の軍だけが南の都市の軍である。

 要するに上記三軍の主力は騎馬であり、南征将軍の軍だけが歩兵を主力とするのだ。

 一般徴募兵はその多くが歩兵である。

 それゆえ、この南征将軍の軍には、将校たちが使い慣れた多くの歩兵が配属されている、そういうことである。


 また、山岳部とも言える西側をなぜ彼らが担当しているのかというと、一つに騎馬で山岳地帯を走破するのが難しいことと、華帝国の南、特に南京府のある楚の南と西、呉に至るまでは複雑な地形の山々が連なる土地であり、南京府の軍にはその地域の出身者が多く山読みが得意な軍だからということもある。


 そんな帝国にとって、他では変えることが出来ない貴重な能力を持った軍、それが南征将軍率いる南京府の軍であるのだ。


 後に、兵部の参謀畑の多くの将校が嘆くことになる。

 「北国の山奥で無駄に優秀な南京府の軍を壊滅させるとは……つくづく軍列の家柄は無能揃いだ」と……。


 ……

 …………


 今晩は満月である。


 草原の民には、遠く華の都にも伝わるこんな言い伝えがある。


 とある秋の満月の晩に、母なる湖の精霊が白き牝鹿の姿を模して現世に舞い降りた。

 白き牝鹿はあまりにも美しい湖面に光輝く満月に見惚れ、ほんのちょっとの時間だけ現世に滞在する予定を伸ばし、美しく煌めく母なる湖を一周してみようと思い立った。

 水辺の草場を掻き分け、母なる湖に清廉なる水が流れこむ小川を飛び越え、長い冬への準備を始めている大草原の草花を楽しみ、それらを一望できる小高い丘に登る。

 そこで、牝鹿は一頭の狼と出会う。

 茶でもなく、黒でもなく、白でも、灰でもない、蒼き姿の狼に出会う。

 一目で恋に落ちた蒼き狼と白き牝鹿は一夜限りの逢瀬を交わす。

 眠りから覚めた蒼き狼は隣に白き牝鹿がいないことに気付いた。

 朝靄と共に消えた牝鹿を追い求め、蒼き狼は日夜、母なる湖の周辺を探し回った。

 やがて、草花が枯れ落ち、雪が舞い、吹雪が始まり、また、やがて春がやってきた。

 季節がまわり、蒼き狼が諦めだした頃、春の満月の日、蒼き狼は一頭の生まれたての狼を見つける。

 母親も父親も兄弟も見当たらず、自分とそっくりの蒼き瞳を宿した仔狼、愛しいあの牝鹿と同じ純白の毛を纏った仔狼。

 蒼き狼はこの仔狼を自分の息子として育てることを決心した。

 名を白き狼、ツァガーン・ショノと名付けて育てる。

 蒼き狼と白き牝鹿の息子、この白き狼こそが草原の民の祖である。

 故に、草原の王は代々こう名乗りを上げるのだ「ガーン」、「可汗」と……。


 ……


 「大いなる可汗よ。我らの準備は整いました」


 崖下に見える帝国の野営地を見つめるひとりの男に、そう恭しく告げる白髪の騎馬民。


 「そうか……」

 「白髪よ……たしか、帝国の奴等が今いるあたりは、この秋の放牧地だったな……あの娘の一族の」

 「左様でございます……」

 「そうか……」


 ぎりっ、ぎりりっりっ。


 強く噛みしめた唇からは血が流れ、握りしめた拳には爪が食い込んで弓手袋から異音が軋む。


 「帝国の奴等は一人も生きて返すな。良いな?俺に二言は無い」

 「はっ!心得て御座います!」

 「では、嚆矢の準備を!」

 「「ははっ!!」」


 可汗の合図を受けて傍に控える兵が嚆矢を番える。


 草原の民が使う馬上弓は特別製である。

 素材の全てを草原で賄い、素材の剥ぎ取りから、弓の完成まで、常に職人と呪い師が聖句を唱えながら造られる馬上弓は、小型ながらも威力は絶大で、華帝国の扱う弩以上とよく言われる。


 その馬上弓で射られる嚆矢。

 その音は四里四方にも鳴り響く。


 今は夜。

 満月が煌々と夜を照らしている。


 帝国の陣営は松明が煌々と灯されている。


 草原の民にとっては、何お視界も妨げぬほどの満月の明るい夜だとしても、松明の帝国が明かりに慣らされた帝国兵が草原の兵に気付いている様子などは一向に無い。


 ならば、その利点を活かすべく、即座に攻撃に移れば良いものではあるのだが、草原の民、特に可汗に率いられた軍はそのようなことはしない。

 戦は相手を単に倒すだけが目的では無い。

 大いなる力を持って粉砕してこそ、初めて相手は屈服するのである。


 「やれっ!」


 ぴょんぴょろっーーー!


 満月の晩に草原の嚆矢が鳴り響く。


 その音に驚き、にわかに崖下の陣中が騒ぎ出した。


 「いくぞっ!」


 可汗が愛馬を扱いて崖を駆け降る。


 帝国の一般的な兵士にとっては、とてもとても騎馬で降りられるような角度の崖ではないが、草原の民にとってこのぐらいはなんということは無い。

 ただただ、無言で可汗の後を追う。


 「て、敵襲!!敵襲!!てっ……ぐあぁっ!」


 見張りの帝国兵が喉に矢を受け絶命する。

 この不幸な南京府兵士が今夜の戦死者第一号であった。

 これより、一方的な殲滅戦が開始される。


 ……

 …………


 時を溯ること四半刻前、部下から予定していた補給が届かぬ事の連絡を受けた南征将軍は、苛立ちを抑えきれぬままに寝所として使用している天幕へと戻った。


 「申し訳ないことだが、我が愛する妻よ。どうにも其方への贈り物を携えた者達の到着が遅れているようだ。俺は帝国で一番、約束を守る男。必ずや、其方には帝国一美しい宝石を送ろうではないか、今しばらく待っておれよ」

 「……」

 「はっはっは!あまりの嬉しさに声も出ぬのか?そうか、そうであろうともな!昨晩も俺の身体の下であまりの良さに声を押し殺していたものな!はっはっは!良い良い、何も言わずとも!俺は妻のことを理解している男だからな!」

 「……」


 南征将軍が妻と呼ぶ娘。

 娘はこの場所を秋の放牧地とする西湖女真の族長の娘だった。

 彼女の父が率いる部族は西湖女真の中では小規模ながら、その歴史の旧さと、西方高原の草原の民と血縁を結んでいることを持って、西湖女真の族長会議に出席することが出来る部族であった。


 小規模ながら、族長会議の一席を占める。


 この事実は、中規模、大規模部族ながら長老会議に席を持たない者達からは、嫉まれるに十分なことであった。妬み嫉みは、往々にして悲劇を生み出す原料となる。

 

 ある部族を襲撃した南征将軍は、助命を願う族長から、絶世の美姫の存在を知る。

 西方高原の血を引くその娘は、まさに月の女神の化身。

 透き通る肌は山脈に降り注ぐ初雪のよう、青みがかった瞳はまるで地上を優しく包み込む闇夜のよう、しなやかに伸びた髪はまさに神々しい太陽のようにきらびやかに光り輝く……。

 本来であったら、そのように昔から使い古された形容などには聞く耳を持たぬ南征将軍だが、この時は何か閃くものがあった。

 なにより、死を間近にした人間は誇張はしても全くの嘘をつくとは思えなかったからだ。


 そこで、南征将軍は決心をした。

 その美しい姫とやらを一目見てやろうと……。

 ついでに、そのように有益な情報を自分に齎したこの男には褒美をくれてやろうとも。


 こうして、族長は光栄にも南征将軍直々に首を刎ねられることとなった。

 本来ならば刃が欠けた鈍ら刀を使って新兵の訓練に使われるはずだった身体を、将軍自らの業物で一刀に首を刎ねて貰ったのだ。

 苦しみもなくあの世に行けたことであろう。

 その証拠に、配下の者達からは自分の慈悲を讃える称賛が一刻は止むことが無かったのだから。


 このような経緯で、靺地から西にいくつもの峠を越え、そう容易く軍は到達できぬであろうこの地に南京軍は侵攻してきたのである。


 「ふむ……俺は心が広い君子ではあるが、あまりに其方が強情であると、ご家族に何か悪いことがおきるかも知れませんな?」

 「!!!!父は!母は!兄弟は!無事なのではないのですか?!」


 家族の身柄に言及された娘は、身体をびくっと振るわせつつも、強い口調で南征将軍を問い詰めた。


 「はっはっは!久しぶりに、その美しい声を聞かせてくれましたね、我が妻よ!ええ、ええもちろん無事ですとも。私は孝の心篤い人間です。最愛の妻のご家族をどうして蔑ろにすることが出来ましょうか?!……ですが、私は妻の家族だからこそ丁重にお迎えするのであって……ねぇ?」


 芝居がかった口調で大きく両手を広げた南征将軍は、いやらしくも、ねちっこい目つきで娘をねめつけた。


 「……わかっています。私は喜んであなたの妻となりましょう……、ですから家族の者だけでも……」

 「はっはっは!ご安心を!私は妻に嘘はつきませんとも!ええ、ええ!」


 そう言って南征将軍は鎧を脱ぎ捨て、天幕内の寝台でうずくまっている娘に近づいて行った。


 ……


 ぴょんぴょろっーーー!


 「な、何だ!このけったいな音は!!」

 「え?!この音はもしや、叔父様の……?!」


 両極端な反応をする二人。


 南征将軍はいぶかし気に虚空を睨み。

 娘は喜色をはらむ声で、一縷の望みに夢を馳せた。


 「て、敵襲!敵襲でございます!!!」


 ばさっ!


 無作法にも勢いよく、南征将軍の天幕の入り口が近侍兵によって開けられる。


 「敵襲だと?!このような夜中にだと?!そんなことは聞いておらん!!俺の予定にはないぞ!!」


 だんっだんっだんっ!


 まるで童のように顔を真赤にして床を踏む南征将軍。


 「敵襲です!敵の総数はわかりませんが、四方の崖上より騎馬隊が突撃してきております!将軍は逸早くお支度を!」

 「……ぬぬぬぬぬ!わかった、即刻蛮族共を血祭りにあげてくれるわ!待っておれ、妻よ!今宵は大いに昂ぶっておる!戻ってきたら眠らせぬぞ!」

 「……叔父様……どうかご武運を!」


 南征将軍は幼稚な精神の持ち主ではあるが、決して弱くも軍の扱いも下手な人間ではない。

 一個人としての武勇では帝国内でも上位であるとの評価も持っている。


 その軍人が気合十分と愛刀を引っ提げて戦場へと向かう。

 南征将軍に好意的な目を向ける人物ならば、頼もしくも英雄的に見える場面であったのだろうが、生憎、娘には南征将軍のその姿は欠片も映っていない。

 彼女は一心に自分の叔父。

 母親の年の離れた弟であるところの、草原の可汗の雄姿を思い描いていた。


 「ふ、ふんっ!」


 南征将軍は娘の視線が己に向いていないことを理解し、不満を示す鼻息一つ、天幕の外、戦場へと向かって行った。


 ……

 …………


 それからどれぐらいの時が流れたのであろうか?

 初めのうちは、漏れ聞こえてくる戦の喧噪に身体を振るわせていた娘だが、時間と共に、その喧噪にも慣れ、いつの間にか居眠りをしてしまっていたようだった。

 心身ともに憔悴している娘には眠りが必要だったのであろう。


 次に娘が目を覚ましたのは、敬愛し、思慕する男の腕の中だった。


 「……え?叔父様?」

 「お?目を覚ましたか……まだ寝ておれ……俺の腕の中が嫌でなければ、せめて朝日が昇るまでは寝ているが良い」


 可汗はそう言って、娘の頬を優しく撫でた。


 「いえ、もう目も覚めました……叔父様、一度私を地表に降ろしてください。一族の窮地を救ってくれた叔父様に礼を施さなくては、西湖女真の娘としての矜持が許しません」

 「そのようなものは要らないのだが……わかった」


 可汗は娘を馬から降ろすつもりなどは無かったのだが、思った以上に強い意志が籠った視線を向けられ、渋々ながらも娘を馬から降ろした。


 「英明なる草原の覇者大可汗よ。この度は西湖の巫女の一族を窮地から救ってくださり、誠に有難うございます」


 娘は両手で裳の両脇を摘まみ、脚を前後に交差させ、軽く折って頭を下げた。

 西方高原や西湖女真に伝わる、女性が行う最敬礼の仕草である。


 「……気にするな……むしろ謝らねばならんのはこちらの方だ。姉も義兄も甥達も救えなかった」

 「……え?!」

 「……部族の生き残りは唯一お前だけであった。……帝国兵共は一兵残らず殺してやったので、少しは義兄上達への手向けとなってくれればありがたいのだが……」

 「そ、そんな……では父上たちは先の戦闘の煽りで……?」

 「いや……残念ながら、俺達があの場所に到着した時には既に帝国の奴らの手によって……」


 苦衷の表情を浮かべて可汗はそう言う。


 「う、嘘よ……そ、そんな……それじゃ……」

 「年が明ければ正式にお前を婚約者として迎えるはずの俺がこの体たらくでは……本当に済まなかった」

 「な……なんの為に、私は……」


 ずっ、ずっ……。


 「ん?ど、どうした?確かに俺の力不足であったが……と、危ないぞ!その先は崖だ。危険だ。戻ってきなさい!」


 血の気の失った表情の娘。

 その双眸に何やら危険な絶望が宿ったのを感じ取った可汗は、急いで自分の馬から飛び降り、娘を迎えに歩き出す。


 「い、いや!来ないで叔父様!!私は……私は穢れてしまったのです!!叔父様の隣……には……もう……」


 そう言って朝日が昇り出した崖の方向へと走り出す娘。


 がさっ……どんっ、どさっ、ぐしゃっ……どっぽーんっ!


 「さ、探せぇ!姫を探すのだ!お救いするのだ!な、なんとしても探すのだ!!!」

 「「は、はっはぁっ!!」」


 可汗の副官、白髪の号令によって、一斉に動き出す草原の兵。


 「な……何故だ……俺は姉も義兄も、甥も姪も、恋した娘すらも守れぬというのか……」


 大元国史にはこのような一節がある。


 華歴二百三十三年秋、大可汗、世祖、妻子を華帝国軍に弑され、復仇を誓う。


 この日、この時、華帝国滅亡の引き金を引く人物が北辺に登場した。

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