カツオのこと

 カツオは小学生のときに、友達にからかわれて、カッとなって、教室の窓をあけて、花びんを思いっきり放り投げました。もし校庭にだれかがいて、それが当たったりなんかしていたら、カツオはもう、立ち直ることはできなくなっていたかもしれません。

 カツオは、先生や両親からこっぴどくおこられて、泣いて、泣いて、泣きやんだらかんがえて、もう二度と、こんなことはしないでおこうと決めました。

 それからというもの、カツオは、暴力なんてふるわないのはもちろん、ひとに悪口をいったりなんかせず、優しく、こころ温かいひとになっていきました。

 でもカツオは、いいことをしても、こんな風に言われることがあるのです。


「窓から花びんを投げたやつに、言われたくない」


 けんかをしている同級生を止めようとして、「ケガをしたら危ないから、落ちつこう」と言うと、「お前だって、花びんを投げて、ひとにケガをさせようとしたじゃないか」と、せめられるのです。なんなら、けんかをしていたはずのふたりが、カツオに悪口をいうために、けんかをやめることもありました。

 そう言われることがふえるたび、カツオはもう、身の回りでたいへんなことが起こっても、だれかを助けようとすることをためらうようになりました。自分にそんなことをする「しかく」はないのだと思うようになったのです。


   ――――――


 この文章をよんで、だれかが、「自分はぜったいにまちがいを起こさないでおこう」と思ったのだとしたら、わたしはざんねんです。

 ひとは、気をつけていても、まちがいを起こすものですから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る