消えてしまった星

 むかしは、学校まで行くとちゅうに、たくさんの船をみた。でも、ぼくが十歳になるころには、両手でかぞえられるだけになってしまった。そしてその二年後には、もう船はなくなってしまっていた。



 いなくなってしまったのは、船だけではなかった。幼なじみのユウちゃんも、転校してしまった。

「中学校はべつべつだね」と言われて、その意味がわかったとき、ぼくは泣いてしまった。ユウちゃんのことが好きだったから、目の前で泣くのは、はずかしかった。でも、ユウちゃんも泣いていたから、おあいこのような気がした。

 ぼくたちはむかし、夜に、こそっと家をぬけだして、砂浜にいったことがある。そして、もうあかりがほとんどないなかで、まんてんの星をみた。

「夏の三角形ってどれだろう」と、ユウちゃんは、星と星のあいだを指でなぞりながらつぶやいた。

「あれじゃない」

 ぼくは、きらきらと光りかがやくみっつの星を見つけたから、こうふんした口ぶりで、ユウちゃんの顔をそっちにみちびいた。

 みっつとも、ほかの星よりかがやいていて、それらをつなぎ合わせると、大きな三角形になった。でも、そのなかのひとつの星は、まるでサッカーボールのように大きくて、ふしぎだった。

「あれは、星じゃないよ」と言って、ユウちゃんはわらった。

 それは、とう台のひかりだった。ぼくは、はずかしくなって、うつむいてしまった。

「三角形をもっと探そうよ」と、ユウちゃんは言った。その言葉で、ぼくは顔をあげた。そして、いろんなところに三角形をみつけた。だって、星をみっつ見つけて、それらをつなぎ合わせれば、三角形になるのだから。

 ぼくのお父さんがむかえにくるまで、ぼくたちは、三角形を集めた。

 お父さんは、ぼくのほほをたたいた。「心配したんだぞ」と言って。痛かったけれど、ユウちゃんの前だったから、泣かなかった。



 船はもう、この村からなくなってしまった。そして、ぼくが中学生のときに、とう台はこわされてしまった。もう、夏の三角形は、宇宙から消えたのではないかと、いまでも思っている。

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