ひみこ様のなみだ

 卑弥呼様――ひみこ様のなみだを見たものは、ある女のひと、ひとりだけでした。その女のひとというのは、ひみこ様の身のまわりのお世話をするひとです。たとえば、ごはんを運んだり、体をふいてあげたり、病気のときはかん病をしてあげたりするひとです。

 この女のひとは、月がうつくしい白いひかりをともしている夜に、ひみこ様がすすり泣く声をきいたのです。

 ひみこ様が生きていたのは、千八百年くらい前のことです。いまわたしたちの生活のなかに、あたりまえのものとしてあるものは、ひとつもないと言ってもいいかもしれません。だから、電気なんてありません。

 その女のひとに、ひみこ様のお顔がはっきり見えなかったのは、もちろんです。


 みなさんは、なぜ、ひみこ様が泣いていたと思いますか。

 ひみこ様は、いろいろなうらないをして、人びとに「雨がたくさんふる」とか、ぎゃくに、「まったくふらなくなる」とかを教えるひとです。


 なになに……「もしうらないをはずしたら、みんなが怒るから、それがこわい」というのがきみの答えかな?

 なるほど! きみは、ひとの気もちがわかる子だ! きっと、いいおとなになる!


 でも、このとき、ひみこ様はこう思っていたらしいのです。


「わたしは、雨がふるだとかふらないだとかを、うらなうことで、みなから、そんけいされているけれど、雨にそなえて家をがんじょうにしたり、いまのうちに水をたくわえたりするのは、みなだ……。ほんとうに、わたしはえらいのだろうか。わたしだって、みなとともに、はたらきたいのだ。でも、まわりはそれを、ゆるしてくれない。だって、わたしは、うらないだけをする人だから……」


 みなさんなら、このひみこ様に、どんな言葉をかけてあげますか。

 さあ、じっくり考えてみてください。


 もちろん、ひとつのせいかいなんて、ありません。

 みなさんの答えが、それぞれ、せいかいになるのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る