かくめい
「かくめいがはじまったぞ!」
わたしの家のドアがバーンと開いて、お兄ちゃんが息をきらしながら飛びこんできた。
そして、わたしたちの前で、両ひざに両手をついて、ぜいぜいと、息のリズムをととのえようとした。
「おお! ついにか!」と、お父さん。
「これで、わたしたちは自由をとりもどせるのね!」と、お母さん。
「そうだよ!」と、息をととのえたお兄ちゃんは、いきいきとした顔をして、目をかがやかせて、かっこよくわらった。
「ねえ、かくめーってなあに?」と、お父さんのボロボロの服のそでをつかんで、わたしは聞いてみた。
「かくめいというのは、悪いやつらを追いだしてしまって、良い世の中にすることだよ」と、お父さんは興奮したようすで、早口で、そうわたしに言った。
「追いだすって、どこへ?」と、わたしはふたたびお父さんに聞いた。するとお兄ちゃんが、「じごくだよ!」と、お父さんのかわりに大声をだした。それは、わたしに言ったというより、この国のすみずみに、とどろかせようとするさけびだった。
「ころしちゃうの? だれを?」と、わたしは青ざめた顔をして、お母さんにたずねた。
「王様と、その仲間たち、みんなだよ!」
ふだんは物静かなお母さんが、顔をあかくして満面の笑みをうかべているのを見るのははじめてで、わたしは、こわくてこわくてしかたがなかった。
――――――
お城はがれきの山になって、ほこりにまみれたこの国の旗が、そのなかに斜めにささっている。
このこわれてしまったお城の前で、王様はころされようとしていた。王様はもうあらがうちからはなく、しょけい台の上で、するどい刃が首に落ちてくるのを待っている。
このしょけい台のまわりには、たくさんの人びとがいて、うなだれた王様へ、口ぐちに言いたいほうだいをしていた。
この王様のせいで、自分たちの生活が苦しくなったことを……いや、それだけではない。自分の身にふりかかる不満のすべてを、この王様のせいにして、首をはねてしまうことですっきりさせようとしている。
すると突然、黒色のコートを着たおとこがひとり、人びとの円のまんなかにあらわれて、こう言った。
「われらの王はいま、われらのためにしのうとしている。しかし、この王がしんだとして、われらは失望してしまうだろう。王がいなくなったからといって、なにも変わりはしない。変えていくのは、われらしだいなのだ。では、われらは、この国をよくすることができるのか……もしそんな方法があるのなら、だれでもいい、教えてくれないか」
その黒色のコートのおとこは、ぼうしをふかくかぶっていたせいで、白色のあごのヒゲしか、はっきりと見えない。
しばらくの間、あたりは静かになった。
しかし、この革命をひきいたリーダーのひとりが、そのおとこの前にいさみでて、「では、こいつが生きていたとして、なにかが変わるかもしれなかった、とでもいうのか?」と、どこか、このおとこを冷やかすような調子で言った。
実は、このしょけい台にむらがる人びとのなかに、のちに世界に名をとどろかす小説家がいた。そして彼は、このふたりのやりとりをすべて書きうつした。のちの彼の作品に大きなえいきょうを与えた、次のような会話がある。
× × ×
革命のリーダー「こいつがなにをしたか、知っているだろう。おれたち国民は、こいつのせいで貧乏になったんだ」
黒色のコートのおとこ「でも、だれも食べられずにしんだわけではない」
リーダー「満足に食えなかっただろう? たくさん働いたら、たくさん食べられる。そんな国にしないとだめなんだ。こいつじゃだめなんだ」
コートのおとこ「たくさん働けないひとは、たくさん食べられなくていい、ということか」
リーダー「いや、そういうわけではないのは、もちろんだ。働けないひとも、食べられる国がいいにきまっている」
コートのおとこ「でもそれは、われらの王が支配していたときと、ほとんど同じことじゃないか。たくさん働けば、働かないひとよりは、たくさん食べられる。でもみんな、少なからずの食にありつけた」
リーダー「ひやかすな! とにかくおれたち国民は、いまの生活に満足できないから、ぜんいんで革命をおこしたんだ!」
コートのおとこ「じゃあ、革命をのぞんでいない人びと、革命に参加していない人びとは、国民ではないわけだ。きみたちは、きみたちの仲間だけを国民とよんで、国を作ろうというのだね……」
× × ×
王はころされたのか。黒色のコートのおとこは、そのあと、どんなふうにされてしまったのか。それは、物語にするほど、とくべつなことではない。とうぜんのことになっただけなのだから。
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