第7話 ご飯でも食べながら話しでもしよう
学校近くのファミレスに寄った僕たちは、意外にもすんなりと座席に着くことができた。
小学校なども夏休み期間らしい。大人たちからすれば、平日というのに家族連れが多かった。ファミレスはかなりガヤついていて、これなら僕たちの会話なんて気にされないはず。
「これも……でも、これも食べてみたいわ……」
「ふはっ」
「な、なぁに?君ね、私は真剣に悩んでいるのに」
「いや、ごめん。ははっ。食べきれなかったら二人で分けて食べようか」
「むぅ。いいですー。また来ればいいんだから」
メニューを迷う姿が、可愛らしくて思わず笑ってしまった僕を、メニュー表を立てて、鼻まで隠したミュナが、僕をジト目で睨んでは、拗ねてそっぽをむいてしまった。
「あはは……」
とりあえず、暫くはミュナの悩ましげな表情を楽しむことにしよう。
結局、僕は白米と、ハンバーグ。ミュナは塩味と野菜のスパゲッティを注文した。
「お待たせいたしましたー。こちらご注文のお料理でございます。ごゆっくりどうぞー」
湯気が上がっている料理を見て、僕はふと、何かを忘れている気がした。
なんだろう。
「わ……。美味しそう……!いただき……」
ああ!!
ガタリ!!と席を立った僕を、ミュナも周りも何事かという目をする。ミュナは、ぽかーんと口を開けて、周りは目を細め、店員さんも何かあったのかと様子を伺いに来てしまった。
ごめんなさい、何にもないです。
周りの視線に気がついて、静かに座った。
店の中は時を取り戻したかのように、ワイワイと賑わいを取り戻した。
「……それで?どうしたのカナタくん」
銀髪を簡単にシュシュで結ったミュナがスパゲッティをフォークでくるくる巻くと口に入れて咀嚼していく。
「こほん。いや、すっかり忘れていたけど。教室が黒板も机も、ぼろぼろのままにしてきちゃったけど、いいのかな……って」
「ああ、それなら問題ないわ。私たちの戦闘の後片付けは全部、審判がやってくれるの」
「審判!?」
「そう。どんなゲームにも審判はいるものでしょ?審判……、監督役かな?その人たちが復元してくれるから任せておけば大丈夫」
そうなのか……。
僕も、白米を口に含んで食べる。
「じゃあ、カナタくん。さっきの戦いのことについてなんだけど……」
ぐぬぬ……と険しい表情をしたミュナ。
「君。お兄様も言っていたけど、眷属が吸血鬼の許可なく武器化を解くことなんてできないわ。それに、自分で武器を持つことも……」
「……ううーん。武器になって、ただ見ているだけっていうのが僕には性に合わなかったといいますか……」
「それか、私の眷属だから?」
「え?」
「ううん、なんでもない。それより、ちゃんとわかってる?眷属制度のこと」
ぽつりと、呟いたミュナの言葉をうまく聞き取れなくて、僕は聞き返したけれど、誤魔化されてしまった。
「何回も聞いたよ。吸血鬼たちじゃ、決着がつかないからだろ?」
「そう。私たちじゃ、戦っても戦っても、勝利の判定が付けられなくて」
だから、僕たち人間の中からたった一人だけを選んで眷属にし、武器化をさせて戦うことが決まった。
眷属の命が尽きるか、眷属が武器化をしている間にその武器が壊れれば、その吸血鬼の勝利となる。
既に12人いる王位継承権保持者のうち、5人は敗退しているらしい。さっきのシンヤは王位継承権第二位の第二王子だったようだ。つまり、第一位も男か。
「前にも言ったけど、私は今まで戦いから逃げていたわ。だって……兄妹で争いなんて……。でも、継承権を剥奪も出来なくてね?だから、私は高校生活をして眷属を作らないことで他の兄妹から見逃してもらえていたの」
ミュナの目が、賑やかで楽しげで、幸せそうな家族を見つめていた。琥珀色の瞳に映るのは羨望だろうか、その横顔は、儚げで。僕はどこかでその目を知っている気がした。
「でも……。私は君を、眷属を作った」
ミュナの目が、真っ直ぐに僕を捉える。
蜂蜜のように透き通った琥珀色の瞳が、僕には眩しくて、ご飯を食べるふりをしながら顔を晒す。
「君を、巻き込んでしまって申し訳ないと思っているわ。でも、もう、負けるまで退くことなんてできない。だけど負けられない。私は王になって君を普通の生活に戻してみせるわ」
はっきりと、しっかりとミュナは意思を示す。
問われている。そんな気がして、ちゃんと言わなくてはと僕はそう思った。
「僕が武器を持ったのは、ミュナを守りたいと思ったからだよ。それで……、一緒に、精一杯、学生生活を楽しみしたい!」
肩をすくめて、笑ってみせる。
「ふふっ、私も?カナタくん、私はもう高校生活を十分楽しんだ。ううん、今も楽しんでる。制服でファミレスなんて初めてよ!」
ありがとうと、そう言ってミュナは満面の笑みを浮かべた。
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