第8話 戦いはこれからやってくる



 僕は、ミュナと分かれて家路に着いた。

 混雑している駅に向かって、電車に乗る。

 本を読んでいる人、荷物を抱えて眠っている人、立ちながら音楽を聴いている人。

 実に様々、それぞれの時間を過ごしているけれど、いるのだろうか。この中にも。


 僕と同じ、吸血鬼の眷属が。


 電車の中は冷房が割と強風目でかかっていたせいか、背筋に伝った一筋の汗はぞっとするほど冷たかった。


 最寄り駅まで着くと、そこからは駅に停めてあった自転車を漕いで家へ。早く家に帰りたくてたまらない。全速力でペダルを踏む。


「た、ただいま」


「あらー。カナタくん。お帰りなさーい。遅かったわね。お勉強していたんでしょう?お腹すいてない?今からお夕飯なんだけれど」


 ゆーるい笑顔の女性が僕を待っていてくれた。


「あ、えっと。ありがとうございます。ゆずなさん。いえ、大丈夫です。ご飯は、連絡通り、いっぱい食べてきちゃいましたから」


「えー、残念。一応、カナタくんの分も作ったんだけど……」


「お母さん。お兄ちゃんがいらないって言ってるんだからいいんじゃない」


「あ!なぁに?そんな冷たい言い方……」


 奥から聞こえてくる少女の声。

 女性は嗜めるが、僕はへらりと笑った。


「いえ、いいんです。ごめんなさい、明日の朝にでも食べますから」


「そう?わかったわ」


 僕は、階段を登って自室へ。制服のままベッドに倒れ込んだ。


「いつ、どこで襲われるかわからない……か」


 剣を握っていた手を見上げる。

 君を守っていけるのだろうか。


「あー……。なんか、予想以上に気を張り続けるってキツイな……」


 天上に向けていた手の甲を額に付けて、僕は夏の夕方の暑さに項垂れるように声をあげた。


 王位継承権保持者は未だ後6人。

 僕たちの戦いはこれからやってくる。

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