第6話 嵐が去った後で

 シンヤが去った後、体を強張らせたミュナの肩に僕の手を置いた。

 びくりとミュナの体が飛び上がる。


「び、びっくりした……。カナタくん。はは、えっと……、……その……」


 最初こそ戯けた表情をしたミュナだったが、徐々に雲行きが怪しく変わっていく。銀髪を耳にかけながら視線の置き場所を探している。


 うーん。

 何かを気にしている様で、僕は何と言ったらいいのかわからなくなってしまった。

 だけど、まぁ、とりあえず。


「ミュナ、ご飯食べに行かないか?」


「ふぇっ?」


 その言葉は予想外だったのか、ミュナは目をぱちぱちと瞬かせて、小首を傾げた。


 ぐーっ。


「「……」」


 うあああああ!!

 いや、僕も高校2年の男子だ。

 食べ盛りな時期でもある。

 それに、これは自然なことだ。だから!

 つまり、何の音が鳴ったのかといえば、緊張がほぐれたて体が緩まったのか、自分でも聞こえるぐらいの音でお腹が鳴ったのである。


「……ぷっ。ふふっ。うん、そうだね。ご飯でも食べに行こうか。私もお腹空いてしまったし」


「……笑うなよ……。普通だろうお腹なるくらい」


「うん、ふふ、でもごめん……ふふっ。なんだか気が抜けちゃって」


 口元を手で隠しながら、くすくすと笑うミュナには、先程までの張り詰めている感じはしない。僕は、どことなく安堵すると、学生鞄を手に取った。


「んじゃ、行こうぜ。ファミレスでいいよね?」


 ここで、お高めでお洒落なカフェだなんだと言われたら僕の財布がパンクするところだ。女子のミュナには悪いがここはファミレスで我慢してもらいたい。

 ファミレスだって、安いしお腹に溜まるし、種類も豊富だし、美味しいし、可愛い見た目のデザートだって沢山ある。でも、女の子とこれまで縁がない僕からすれば、女子はカフェみたいなイメージが強く、ミュナからの反応を恐々と伺った。


「ふぁ、ファミレス……!?本当に!?」


「予想外な反応!!!」


 ミュナは瞳を輝かせていた。

 それから、恥ずかしそうに、もじもじと指を遊ぶと、上目遣いで僕の事を見上げてくる。


「あの……ね。私、行ったことがなくて……。マナーとか、わからないけれど……」


「いや!ないから!あるとしたら社会的な普通の最低限のことだけだから」


「そ、そうなの?」


 食べ物に感謝を、お店を走らない、あとドリンクバーでは譲り合うとか、食べ方だって普通に食べれば問題ないはずだ。僕はそう思っている。


 さて、色々話すことは沢山ある。

 ご飯を食べながらでも話しをしよう。


 僕たちが、教室の惨状について何も対応していないことに気がついたのは、ファミレスでご飯を注文して、それが届くくらいの頃だった。


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