よく晴れた暑い日の夜

尾八原ジュージ

よく晴れた暑い日の夜

 七月の終わりの暑い夜だった。

 残業を終えた私が自宅の最寄り駅に着くと、もう日付が変わっていた。

 途中のコンビニで食パンと牛乳を買った。店を出て少し歩き、T字路を左折すると途端に光源が減って辺りが暗くなる。左手に大きな寺があって、広大な墓地が続くのだ。

 暗い通りの半ばに一本の電柱がある。そこに取り付けられた街灯の下に、誰かが立っていた。

 黄色いレインコートを着た、小さな人影だ。

 小学一年生くらいの子供のように見えた。こんな時間にどうして一人で外にいるのだろう。雨が降っていないのにレインコートを着て、墓地の近くで……

(見なかったことにしよう)

 引き返すのも不自然だ。私はポーカーフェイスを装い、足早に電柱の前を通り過ぎた。何も起こらない。思わずほっと溜息をついたその時、私のむき出しの二の腕に、小さな冷たい手がぴちゃんと触れた。

 すぐ横に黄色いレインコートが立っていた。

 フードの中に、上下が逆さまになった顔があった。


 気が付くと私は自宅の玄関で、靴も脱がずに座り込んでいた。

 コンビニの袋が妙に重たかった。未開封の食パンの袋の中になぜか水が溜まって、パンがぐっしょりと濡れていた。


 今でも暑い日が続くと、夜、墓地の通りに黄色いレインコートが立っている。

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