第十話 カインが仁だと知っている理由

side紅葉


 私は深い微睡まどろみの中から目を覚ます。体はベッドに横たわっており、とてもリラックスした状態だった。ゴーグル型のVR機器を近くの机に置いてからゆっくりと伸びをしてから体を起こす。


「あぁ、今日も楽しかったなぁ。仁に今日も私のことばれてなければいいんだけど...。大丈夫よね?」


 私は今日あった出来事を思い返してみる。何度か頷いてから今日もボロを出さなかったことを確認する。


「うん、問題なし。でも、私だけカインが仁であることを知っているのはなんかフェアじゃないのよね」


 そう、私はこのゲームを始めた時からカインが仁であることを知っていた。というのも、そもそもこのゲームを始めたきっかけが仁だった。当初仁がこのゲームが出た時に親に買って欲しいと頼んだのだ。その頃から私はすでに仁のことが好きだった。だけど、仁といると何故か強く当たってしまう。いや、仁だけではないのだけれど、とにかく性格がキツくなってしまう。そんなところでもしも仁がゲームにのめり込んで仕舞えば、私との関わりが消えてしまうことなんて明白だった。だからそこで私は動いた。


 仁が親にゲームを買って欲しいことを頼んだ次の日、私は学校が終わると一足先に帰宅した。それから仁の家に行ってご両親に会った。最初はどうしてここに来たのかわからないといった表情をしていたけれど、事情を話すとすぐに納得してくれた。


 それから私はご両親にゲームを買うのかどうかを聞いた。すると、ご両親は『まあ少し高いけどゲームくらいなら』と答えた。そこで私は、頭を下げて買う条件に一つ追加して欲しいことを伝えた。それは、『一番最初にいつの何時からプレイするのかとプレイヤーネームを教えてもらう』というものだった。


 なぜそんなことを聞くのか疑問に思った両親だったが、事細かに説明したら納得してくれた。


 それから私はご両親から仁のプレイヤーネーム、そして始まる日時を教えてもらった。そしてそれに合わせてゲームを始めた。


 まあ簡単に説明してしまったけどこれがカインが仁であることを知っている理由だ。


 私はベッドから降りて掛けてある時計に目を移す。


「うん、明日の学校にも支障は無さそう。あまり遅すぎても学校にも遅刻しちゃうし肌にも悪いものね」


 私は手近にあった鞄を手に取り明日の学校に行く支度をする。


「あぁ、明日も学校で話せるといいなぁ」


 私は仁と話しているところを思い浮かべて幸せな気持ちになる。


 それから私は学校へ行く支度を済ませてから自室を出て行った。

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