第八話 光景と決意
扉を開けた瞬間、白い光に包まれた。比喩表現とかではない。そのまんまの意味だ。
そのまま俺は白い光の中を歩き続ける。すると、急に視界が開けてきた。
「うわぁ、すっごい!」
俺より先についていたクレハが驚きの声をあげていた。俺はクレハの横に行き、周囲を見渡す。
「これは、確かにすごいな。圧巻の一言に尽きる」
俺たちの視界には、まさに世界が映し出されていた。
ここはどうやらこのダンジョンの屋上らしい。塔型のこのダンジョンは下から見ると、遥か上空まで伸びていた。それこそどこまで続いているか分からないくらいだ。目下に広がる景色は遥かに続く森林、そしてその先には街まで見える。屋上を一周するように歩いてみると、歩くたびに景色が変わる。海を跨いだその先に見える真っ赤に燃えるような土地はルビー大陸だろうか?
それから俺たちは無言で景色を楽しむため、各自で屋上を歩き回った。
「ん?なんだ?」
歩いていると、視界の端に通知が来たのがみえた。赤色の表示が出ているということは運営側からの通知だろう。フレンドからの通知は緑色に表示されるからだ。
俺はゲームウィンドウを開いてから通知を開く。
『第六の大陸、
運営より』
俺はフッと笑ってしまった。討伐してから少し経っている今、通知が来るんだから。運営なら討伐したその時にでも通知をよこせばいいものを。
「じ、カイーン!」
クレハがこちらに向かって走ってきた。
俺のところに着くと、自分のゲームウィンドウをこちらに見せてくる。
「ねぇ、これ見た?」
「あぁ、今見たところだよ」
「いつもなら討伐したすぐ直後に通知が送られてくるのにね」
「なんだろ、その辺もやっぱり今後に関係があるのか?」
「さぁ、私に聞かれてもわからないんだけど.....」
それから俺たちは同時にプッと吐き出してから塔の上から景色を堪能する。改めて見ても本当にすごい景色だ。まるで絵画の中からそのまま飛び出してきたかのような神秘さがあった。この光景もVRMMOならではの光景だろう。現実世界はこんなに自然は残っていない。人工物ばかりで溢れかえっているのだから。
俺はチラリと隣をみる。するとそこには、夕日に照らされたクレハが風で揺れる髪を押さえていた。少し目を細めて遠くを見ている。それがまたどんなものよりも美しくみえた。それと同時にあることを決意する。
そうだな、そろそろいい頃合いかもしれない。俺は端っこに映るゲームウィンドウに視線をやりながら密かに頷く。
「よし、そろそろギルドハウスに戻ろう。ここで時間を潰してしまうとリアルでも支障が出ると思うからな」
「そうね、それじゃあそろそろ帰りましょ。といっても、ここからどうやって下まで行くの?それに、ギルドハウスに戻るとなると、それなりに時間がかかると思うんだけど...」
クレハは少し困ったような顔をしている。だが、どれも別にそこまで気にすることでもない。
「その辺は大丈夫だと思うぞ。塔の下への降り方はさっきここをぐるっと回っているときに転移陣を見つけた。おそらくそこから塔の外、又は中へと戻れると思う。それに、ここから西に向かえばすぐに街に出る。そうすれば町に設置されている転移門を利用できる。そしたら俺たちが拠点にしているダイヤモンド大陸の街、カラテットに戻ることができる」
俺が指をピンと立てて説明してみせると、『あぁ、確かにそこまで距離はないかも』と呟いた。
「じゃあとりあえずその転移陣とやらに行くわよ!」
「おう!」
俺たちは2人で足並みを揃えて転移陣の元へ向かう。それから少ししてから目的地まで到着した。
「よし、ここに入ればおそらくはどこかに出るはずだ」
「どこかってどこよ」
「さぁ、出口がここしかないんだから仕方ないだろ?なんだ、クレハはここから飛び降りるってのか?」
「別にそうは言ってないでしょ!それに、ここから飛び降りたら普通に即死よ」
俺は真下が見えるところまで移動して下を覗いてみる。遥か先に地面が見える。ここから落ちたらと考えるだけで身震いが止まらない。
「ほら、さっさと帰るわよ」
クレハは軽くため息をついて呆れたような目をしていた。
俺は急いでクレハの
「それじゃあ行くわよ」
俺はコクリと頷く。それから2人揃って白く光り輝く円の中に足を踏み入れた。
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【転移陣】
ダンジョンや森林、洞窟などに設置されているギミック。転移陣は転移門と違い、自然に発生したものとなっている(ゲームの設定上)。また、転移門と違う点は最初から入り口と出口が設定されていないところである。つまり、入口を見つけ、そこに足を踏み入れるまでどこに出るかわからないというものだ。一度転移陣に足を踏み入れることにより、出口である転移陣が出現する。
【転移門】
転移門は、各大陸にある大きな街にのみ設置されている。ゲーム上の設定では遥か昔に人々が移動手段に困っていたところ、長い年月をかけて転移門を作り上げたということになっている。また、転移陣と違う点は転移門を利用することによって各街同士を簡単に移動することができる。これはランダムではなく、行き先を自分で決めることができる。ちなみに大きな街は各大陸に一つずつしかない。だが、それ以外にも小さな街や村などは所々にてんてんとしている。
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