失われた2月30日 1年で最も不幸な日☠
むかし、むかし。
1年が367日あった頃のお話。
ある男の子がともだちにたずねました。
「ねぇねぇ、1年で一番いやな日っていつ?」
ともだちは笑いながら言いました。
「そんなのきまってるだろ、あの日だよっ」
「あの日?」
「あの日はあの日だよ」
ともだちは言うのをためらってました。
「ねぇ、言ってよ。気になるじゃないか」
男の子があまりにもしつこいのでともだちは困りながら言いました。
「そりゃ、地震や台風、なだれに大火事とか戦争がよく起きるあの日だよ」
「だから、いつなのさ?」
「いいや、おれは言わない。思い出すだけでもイヤなのに口に出させようとしないでくれよ。じゃあな」
ともだちは逃げるように立ち去りました。
2月29日
「あれっ、どうしたんだろう?」
町で出会う人のすべてがそわそわしています。
「ねぇ、おじさん。どうしてそんなにおびえているの?」
男の子はいつもげんきでたよりがいのあるおじさんに声をかけると、おじさんはびくっとしながら、ふり返ります。
「なんだ、びっくりした・・・いや、そりゃ・・・な」
「どういうこと?」
「そんなこともわからないのか?ほら見ろ・・・」
おじさんが指さす方向を見ると、兵隊さんたちがけわしい顔をして歩いてきます。
男の子は尋ねます。
「戦争があるの?」
「あるかもしれないな・・・」
「かも?わからないのに兵隊さんが準備しているの?」
「そりゃそうさ、明日は・・・はぁ、考えたくもない。あっちへ行ってくれ」
おじさんに追い払われて、男の子は家に帰ります。
「変なの」
男の子は家に帰りました。
そして、家族のみんなで夕ごはんをたべているときに、パパとママに笑顔でたずねました。
「ねぇねぇ、明日は何の日?」
ガタッ
机がゆれて、スープがこぼれました。
「そんなことを聞くな」
パパが怒って言います。
「でも・・・っ」
「ねっ、いい子だからやめてちょうだい」
男の子が反論しようとすると、ママが悲しい笑顔で男の子の頭をなでます。
「なんで、なんでなのさっ、2月30日がそんなに嫌なの?」
男の子の言葉にママは悲鳴をあげて言います。
「この子はっ!!!」
パパも怒って言います。
「明日は1年で一番不幸な日だろ、そんなこともわからないのか!!!」
男の子はショックな顔をしてパパとママの顔を見ます。
「そんな・・・明日は・・・ボクの誕生日じゃないかっ!!!」
男の子は泣きながら自分の部屋へと行きました。
次の日。2月30日ーーー
男の子は町を歩きます。
みんな黒い服を着ています。
みんな悲しそうな顔をしています。
みんなおびえた顔をしています。
小さな赤ちゃんが笑っていました。
けれど、それを親が不謹慎だと言って怒ると、泣き出しました。
お墓に行く人もいました。
教会に悪いことが起きないようにお祈りしに行く人がいました。
男の子はケーキ屋さんに行きました。
「なに?ケーキを売ってくれですって?それも、おたんじょうび、おめでとうって書けって?ふざけないで、こんな日にケーキなんか作れないわ、それにおめでとうなんて書ける気分じゃない、帰ってちょーだい」
ケーキ屋さんから追い返されました。
「なんで、なんでなの?」
ボクの誕生日は1年でもっとも不幸な日。
「ボクが生まれたことって・・・不幸なの?」
男の子は自分の誕生日を何年も何年も悲しい顔をしてむかえました。
そして、男の子が青年になったころ、王様は2月30日を廃止することを決めました。
国民は大喜び。
そして、2月29日は決して悪い日ではなかったけれど、29日は次の日が30日だと思って悲しくなると王女様が言ったので、29日は4年に1度だけになりました。
青年は誕生日を失いました。
ぽつりとつぶやきました。
「王様たちの子どもたちが生まれた日に不幸がありますように」
世界は不幸な日はなくなりました。
そして、不幸はいつ起こるかわからなくなりました。
ただ、王様の子どもが生まれる日に不幸になることが多かったとか、少なかったとか。
青年はどんな日だって笑ってこう言ったそうです。
「今日は誰かにとって、めでたい日だ!!だから、笑おう!!!」
おしまい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます