性格診断

 これは、僕が大学3年生の頃の話である。

 

 僕は大学生当時、とにかくお金がなく、色々なアルバイトを掛け持ちしていた。

 

 その中でも1番長く続けていて、仕事も1番楽しかったのはスノーボードショップの販売員である。

 

 スノボショップは、基本的に複数メーカーと契約し、シーズン毎にまとめてボード類を仕入れ、粗利をのせて販売する商売である。

 

 売れ残りは店舗買上げになるため、どのボードを何枚仕入れるか、その年の流行りやデザインをみて、仕入れを判断する目利きが非常に重要になる。

 

 ただ一部「持込み」という例外的な仕入れもある。

 

 持込みは、まだ名前の売れていないスノーボードメーカーが、売れ残った分はメーカー回収という契約でショップに置いている商品である。

 

 売れ残りのリスクがないということで、ショップは人気ブランドでなくても店頭に置きやすい。

 

 — ある日のこと、僕が働くショップに持込みで新しいボードがやってきた。

 

 しかし店長は興味なさげに「あれは売れなそうだから適当でいいよ。」とつれない。

 

 そのボードはというと、黄色地にデカデカと「鬼龍神」とだけ達筆な字でプリントがある潔い一品であった。

 

 — なるほど…。

 

 僕はなぜかその鬼龍神に愛着が湧き、なんとかシーズン中に一本でも売ってあげようと心に決めた。

 

 しかしこういうボードの販売は結構難しい。

 

 店員のセンスは結構売上に影響し、コイツダサイなと思われると客を逃して全体の売上にも支障がでるのである。

 

 つまりお客さまに鬼龍神をご提案しつつ、こいつマジか?となるのは避けなければならない。(他意はない)

 

 そこで僕は知恵を絞った。

 

 ぼく(どっちに転んでもイケるように話せばいいんじゃないか?)

 

 つまり作戦はこうである。

 

 ぼく「お兄さんうちめっちゃ調子良いボードあるんですよ!これなんですけどね…。」

 

 こう言って、ジャジャーン!と鬼龍神のボードをみせるのだ。

 

 そして、ニュートラルな笑顔。ニカッ!

 

 お兄さん「ちょっとこれは(笑)」

 

 この場合は、「なんだお兄さん漢字は嫌いか!(笑)」とか冗談にして別の手堅いボードをご提案する。

 

 ポイントはニュートラルな笑顔である。鬼龍神好きのお客さまには言葉通りに受け取って貰う必要がある。

 

 そう。これは鬼龍神を使った性格診断。

 

 同じやり取りを数十回は繰り返しただろうか?その日はやってきた。

 

 ぼく「お兄さん!うちめっちゃ調子良いボードあるんですよ!これなんですけどね…。」

 

 ぼく(ニュートラルな笑顔、ニカッ!)

 

 ぼく(どっちだ…!どっちだ…!)

 

 お兄さん「…シビぃっすね。」

 

 うん!お兄さんはたぶん元ヤン。

 

 性格診断 完

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