おむすびコロコロ

 これは、僕が大学2年生の頃の話である。

 

 当時僕はあゆというギャルとお付き合いをしていて、あゆは僕のおおかたの友人とも顔馴染みであった。(ギャルのコミュ力は高い)

 

 その日は、僕とあゆ、そして高校時代の同級生3人の5人でつるんで遊んでいた。

 

 大学生というものは時間はあるが金はなく、よく深夜に車で繰り出していた。

 

 その日も目的のないドライブに飽きた僕たちは、夜の山登りをすることにした。

 

 ぼく「もしかしたら夜景も見えるかもな」

 

 そんな期待もありながら、1時間くらい田舎に車を走らせた。

 

 目的地につき、くだらない話をしながら山を登り始めた僕たちは、せいぜい20分くらいですぐに登頂してしまった。

 

 ぼく「おー!意外と綺麗だね!」

 

 眼下に広がるのは所詮田舎の街なので、100万ドルの夜景とは言えないが、20分のハイキングの成果としては充分だった。

 

 あゆ「なんか展望台みたいなのあるよ」

 

 僕たちは、あゆの指し示す方向を見た。

 

 イメージが沸くだろうか?他の地形より少し盛り上がった丘の上に、鉄骨で展望台が組まれていた。

 

 眼下の街をよく見渡せるように、少し迫り出すようにたった展望台は、見上げた感じからすると、5〜6メートルくらいだろうか。

 

 こじま「もしかして、あの上の方が景色がもっとよくみえるんじゃないか?」

 

 僕たちはこじまの言うままに、丘を回り込み、展望台を目指した。

 

 足を滑らせないよう慎重に展望台を登ると、視界を遮るものがないぶん、たしかに夜景はとても綺麗だった。

 

 こじま「言ったとおりだろ!」

 

 こじまはとても得意そうだった。

 

 暫く景色を堪能した僕たちは、そろそろ下山することにした。

 

 行きはワクワクがあるからいいが、帰りはちょっと気が重い。

 

 踵を返そうとした時、ふとこじまが言った。

 

 こじま「…展望台飛び降りたほうが近道じゃね?」

 

「あーそうだな…。」「いけるんじゃないか?」ひと通り展望台の下を覗き込んだりして安全を確認するポーズを見せた僕たちは、こじまに場所をあけた。

 

 展望台のへりにしゃがみ込んだこじまの隣から、ぼくも身を乗り出して下を覗き込むとちょっとクラッとした。結構高い。

 

 ― これ、いけるのか…?

 

 ちょっと心配になる僕を横目に、しゃがんで膝を抱えたまま下を覗き込み、よゆーよゆーというこじま。

 

 こじま「カウントして」

 

 僕はわかったというとカウントを始めた。

 

 3…2…1…。

 

 こじまは、カエル飛びの要領で手足を開き、空中に躍り出ると、最頂点で着地に備えて再び体育座りのように膝を抱えた。

 

 0.2秒後、重力がこじまの体を下に引っ張り始めた頃…。

 

 「・・ヤベッ」

 

 ― やべ?

 

 僕は一瞬空中で静止するこじまの呟きを聞いた気がしたが、ひとまず無事を見届けようと下を覗いた。

 

 こじまは重力に逆らわず、体育座りの姿勢のままスチャリと地面に着地すると、一瞬シーンという静寂に包まれた。

 

 みんな「「おぉ〜!」」

 

 10テンダナ、10テン、ブラボー、各々がウンウンと頷きながらこじまの素晴らしい着地を見届けた。

 

 しかし、僕は目を離さなかった。呟きを聞いたからだ。

 

 5秒後、そのままの姿勢でこじまはゆっくりと山の斜面を転がりだした。

 

 おむすびコロコロ 完

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