法律のはなし

 これはわりと最近の話である。

 

 僕はF蘭ではあるが、大学時代には法律を専攻していた。

 

 F蘭の法学部には、真面目系クズやサイコパシーが集まりやすく、ちょっとヤバイ友人ができ、今も親交があったりする。

 

 パチンコとタバコに取り憑かれた彼らは、法曹など志すわけもなく、就活もほどほどに適当な会社に入社したり、たまに入社しなかったりしていた。

 

 その頃に仲良くなった友人に林という男がおり、林は新卒でマンション販売の会社に入り、たしか3ヶ月で辞めていた。その後はアルバイトで飲食店に勤めてそこで正社員になっていたはずだ。

 

 学校を卒業して4年程経った頃、林から一本の電話があり、聞けば一念発起して大手広告代理店の面接を受けるのだという。

 

 僕は何となくOB訪問やら面接対策やらを手伝い、契約社員からではあるものの、見事に林はそこに入社した。(元々林は、営業センスにおいては天賦の才がある)

 

 ただ内定したものの、配属が地方であったため、数年前林は当時付き合っていた彼女と一緒に東北まで旅立っていった。

 

 そんな林から、電話があったのが数日前。朝の8時くらいだった気がする。

 

 林「聞いてくれよ〜。俺悪くないよな?」

 

 ぼく「どうしたの?」

 

 電話越しに外にいるのだなと分かった僕は、朝早いなと思ったが、ひとまず話を促した。

 

 林「俺も彼女もめっちゃ酒飲むの知ってるっしょ?昨日2人で家で晩酌してたんだよ…。で、昨日はいつにも増して飲んでさ。」

 

 林「そしたら2人ともベロベロになっちゃって…。彼女がそこまで酔ってるの初めてみたから心配だったんだけど俺も床でそのまま寝ちゃってさ…。」

 

 朝起きると彼女の姿がなかったのだという。

 

 林「それで慌てて部屋の中探したんだけどいなくて、もしかしてトイレか?と思って行ったら案の定便座にもたれて寝てたんだよ。」

 

 僕はあまり酒を飲まないので分からないが、酔うとそういうものなのだろう。

 

 林「そこでハッ!と昨日のことを思い出したんだよな。」

 

 林の彼女は本当にお酒が強く、人に酔った姿を見られたことはないらしい。

 

 彼氏の林には特に酔った姿をみられたくないと思っていたようで、万が一自分が酔っ払った時は、ぶん殴って起こしてくれと、そう言われたそうだ。

 

 林「だから俺今がその時じゃんと思って、振りかぶってさ、右ストレートを彼女に打ち込んだわけ。」

 

 そしたら彼女は飛び起きて、林の姿をみるときゃー!と叫び声を上げ、警察ー!警察呼んでー!とおさまらない。

 

 林「だから俺、あ、知らない人だと思ってパニックになっちゃってるんだな…。と思ってさ。大丈夫!大丈夫!俺だよ林!って声をかけたんだよ」

 

 彼女は林の顔をギロリと睨みつけると、「分かってます。警察呼んで下さい!」という。

 

 林「俺もう焦っちゃってさ…。」

 

 昨日酔った姿見せるようならぶん殴って起こしてって言ったじゃん!と弁明したらしい。そしたら…。

 

 彼女「普通平手だろ!」って…。

 

 それで部屋を追い出されて外から僕に電話したのが今らしい。

 

 話し終わり俺悪くないよな?という林。

 

 ぼく「うーんちょっとわかんないんだけど…。」


 僕は少し考えて言った。

 

 ぼく「訴えられたら負けると思う。」

 

 法律のはなし 完

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