第12話:浮気疑惑

「無計画な出産は子供を不幸にさせるだけだ」

「無計画じゃないよ。ママになる覚悟と準備はできてるから」


 自信満々に答えるものの、俺は心配で仕方がなかった。

 ていうか、何を考えてるのか、さっぱり理解できなかった。


「その自信はどこから来るんだ?」

「内側から漲ってくるの。わたしはママになるんだって」

「悪いが……俺たちにまだ子供は早いと思ってるから」

「どうして……どうして……そ、そんな酷いこと言うの?」

「現実に物事を考えろ。俺たちに子供は」


 俺の言葉を遮って、堕落嫁は口を挟んできた。

 言葉の節々が金切り声に聞こえてしまう。


「わたしたちが結婚してからもう三年だよ。もう子供が居てもいいじゃん」

「気持ちは分かる。だが、お前は面倒を見られるのか?」

「見れるよ」

「今まで散々家事もしなかったのにか?」


 多少思うことがあったのか、子供が欲しいと駄々を捏ねた嫁も黙ってしまう。


「………………浮気してるんだね、海斗くん」

「はぁ? どうして……浮気とかになってくるんだよ」

「そうじゃん。絶対にそうじゃん。見れば分かるよ。浮気してるって」


 勝手な思い込みに苛立ちが治らず、俺は彼女に怒鳴ってしまった。

 普段は温厚な男だと知っているのか、彼女自身も俺をこれ以上怒らせたらマズイと思ったのだろう。

 彼女は捨て台詞を吐いて、リビングを出て行く。


「浮気しても……絶対にわたしは別れないから。海斗くんはわたしのものだから」

「………………」


 黙り込む俺に対して、振り返りながらもう一言。


「絶対に……孕んでやるんだから……海斗くんの子供を。わ、わたしが……」


 怨念じみた言葉通り、堕落嫁は俺へのスキンシップを増やしてきた。

 お風呂に入っている時に、勝手にドアを開けてきて「背中をお流しします」とか言い出すし、グッスリと寝ている隙を突いて、夜這いを掛けてくることもあった。

 可愛い嫁自慢で済む話かもしれないが、俺にとってはうざったらしいだけだった。

 日頃の疲れを癒すためにお風呂もゆっくり入りたいし、睡眠時間を削られるのは社会人には死活問題だ。


「教えてくれ、琴美ちゃん。女性って何だ。女性って情緒不安定なのか?」

「先輩飲み過ぎですよー。はい、お水です」


 金曜日の仕事終わり。

 俺は後輩の琴美と共に酒を飲みに行くことにした。

 普段は真っ直ぐ家に帰る俺だが、時々は職場の人たちと飲みに行くのも大事なのだ。


「ありがとう……琴美ちゃんは優しいなぁー。俺よりも年下なのにー」

「先輩って……お酒飲んじゃうと甘えんぼうになっちゃうんですね」

「悪かったな……ちょっと酔ってるんだよ」


 水を一気飲みし、多少は酔いが覚めた気がした。


「でも、確かに先輩の奥さん……話を聞く限り怪しいですよね」

「怪しい?」

「はい。だって今まで何もせずにグータラ生活をしてたわけでしょ。それなのに突然子供が欲しいとか言っておかしいじゃないですか」

「何か理由があると?」

「はい。例えば……奥さんが浮気してるとか」

「えっ……? う、浮気??」

「もしかしたら奥さんは他の男性と関係を持っていて……実は今お腹の中に子供が」

「……あはは、そ、そんなことあるわけないじゃん。こ、琴美ちゃん」

「先輩、案外女の子って色々と隠し事してることありますよ」

「マジ?」

「はい。実は私の知り合いに探偵さんが居るんですが、調べてもらいますか?」

「いや……でも、た、探偵をや、雇うってのは」

「先輩!! 真剣に考えてください」


 琴美の押し流される形で、俺は探偵を雇うことにした。

 彼女の紹介だからということで代金は結構割引されるとのこと。

 調べてもらう期間は一週間。果たしてどんな結果が出ることやら。


「伝票いくらだ……うわぁ、結構飲んじまったな」

「先輩、割り勘でいいですよ」

「ったく。後輩は先輩に飲まされてばいいんだよ」

「いいえ。払わせてもらいます」


 俺が払うと言えど、琴美は話を聞こうとはしなかった。

 そのまま割り勘ということで、会計に来たわけなのだが。


「クレカでお願いします」


 琴美は黒色のクレカで素早く会計を済ませてしまった。

 後輩に奢られるのは些か良い気分ではなかった。


————


 他作品の連載に集中してた。

 更新遅れて申し訳ない。

 プロットは全部終えている。

 安心して最後まで読んでくだちい。

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