第11話:子供が欲しい

「ちょっと待てよ。どうしてそんなことになるんだよ」

「だって、そういうことじゃん!! 魅力がないからわたしを抱けないんでしょ?」


 楓は涙を流していた。涙を流し始めると、女という生き物は面倒臭さが百倍に跳ね上がる。

 この調子だと丸め込まれてしまうと思い、自分の本心を伝えた。

 ここで嘘を吐いたところで、地べたに吐き出されたガムのように粘着してくるだけだからだ。


「仕事で疲れてるんだよ。今日じゃなくてもいいだろ」

「仕事仕事って何? ただ言い訳してるだけじゃん」

「違うってそんな意味で言ったわけじゃなくてだな……」

「なら、抱きなさいよ。抱いてみせなさいよ。できないの?」


 煽られたところで抱く気はさらさらない。

 乙女心とやらは、まことに理解できない。

 どんな心情変化が起きたのだろうか。

 国語の問題で登場人物の心情を書きなさいとか学生時代にはあったけど、現実の女はさっぱり分からない。

 そもそもな話。

 誰かの気持ちを理解できるのならば、その人間はさぞかしモテるだろうし、人生を謳歌しているだろう。


「何があったんだ? 子供でも欲しくなったのか?」

「うん……子供が欲しいの」

「そうか。でも突然だな。どうしてだ?」

「子供が居たら、海斗くんは別れられないでしょ?」

「えっ……?」

「子供さえ居れば……海斗くんはわたしとずっと一緒に居られるもん」

「はぁ……? な、何を言ってるんだ?」

「わたしね、海斗くんと別れる気全然ないの。だからね、子供作ろうと思ったの」

「そ、そんな理由で?」

「そんな理由じゃないよ。わたし……海斗くんが居ないと何もできないもん」


 だからね、と星が消えた夜空みたいな瞳を浮かべて。


「繋がりが欲しいの。もう絶対に海斗くんが離婚しようとか言い出さないために」

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