第5話:一時休戦

 離婚しようと思えど、俺だけの判断で済む問題ではない。

 あくまでも、お互いのサインが無ければ認められないのだ。

 一応弁護士などを雇って争うという形でもいいのだが、そこまでやるかという気持ちもありまして、一時休戦となった。


「あのさー? 俺の夜飯は?」

「カップ麺でも食えばいいじゃん」

「おい……偶には料理でも作れよ。どうせ暇なんだし」

「何ッ? 女はね、飯を作るロボットじゃないの! ていうか、暇って何ですか? 暇って。わたしだって忙しいの」


 琴線に触れてしまったのだろうか、楓はキレた。

 一時休戦になると思っていたのに、また雰囲気が最悪だ。

 相手がその気なら俺だって黙っていられない。


「俺だって、お前みたいなクズを養う義理はねぇーよ。俺に比べたら、確実にお前は暇だろうが。てか、今日何したの? てか、何できたの? お前、何もやってないじゃん」


 人様には働かせて、自分は自宅でぬくぬく生活。

 本当良いご身分だな。考えただけでムカついてくる。


「海斗くんが安泰な生活を送れるように祈ってたよ」

「可愛らしい発言で誤魔化せると思うなよ。俺を見くびるな」

「ひ、ひどい……ほ、本当のことなのに」

「祈るぐらいなら、俺の為に家事の一つぐらいやれよ」

「お嫁さんにそんなこと言ったらダメなんだよ?? 男の子が女の子を守るのは当然じゃない??」

「そこには女性が男性を支えるべきなんだがな」

「だからね、祈ってるんだよ」


 毎日テレビ見ながら、ポテトチップスとコーラ片手にだろ?


 話にならんと思い、俺はカップ麺を作って食べた。

 思い出してみれば、休日以外はずっとコンビニ飯かカップ麺。偶に外食に行く時もあるけれど……大学の頃は良かった。


 まだ人並みの優しさを持っていた楓が弁当を作ってくれていたし。それなのに……今ではもう見る影もない。


 と、思っていたのだが、翌朝奇跡が起きやがった。

 普段は俺の隣でぐーすかぴーすか寝てやがる楓の姿がなかったのだ。腹が痛くてトイレでも行ってるのかとバカにした気持ちでいたのだが、アイツはキッチンに立っていたのだ。


「おい……一体どんな風の吹き回しだ??」

「偶には弁当を作ってもいいかなと思って」

「そりゃあ、どうも」


 心底嬉しいのだが、俺はぶっきらぼうに言った。

 我ながらもっと喜べはいいのにと思ってしまう。

 でも俺と楓の関係は簡単に修復できそうにない。

 一度拗れてしまった関係が戻るのは時間がかかるのだ。


「朝ごはんも作ったの。食べていくでしょ?」

「いいのか?」

「海斗くんのために作ったんだから。いつも頑張ってるから」


 これは夢だと確信し、ほっぺたを引っ張ってみた。

 普通に痛かった。乙女心というのは複雑だというが、割と真面目に理解できない。

 昨日は散々怒っていたのに、今は優しいのだ。

 どこまで情緒不安定なのだろうか??


「あのさ……き、昨日はごめんね。いっぱい酷いことを言っちゃったよね……そ、その本当にごめんなさい」

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