第2話:結婚詐欺

 女という生き物は都合が良い立場になると、態度を豹変させ、形勢逆転を計ってくる。自分は悪くないの一点張りだ。

 例えば、相手の非が1%もあれば、それだけで全ての問題はお前だと言わんとばかりに、口を開いて捲し立ててくるのだ。


「うそだったんだね。あーもう結婚詐欺じゃん」

「い、いや……」

「いやじゃない!! 三年前親族が沢山居る結婚式会場で「一生幸せにします」と誓っていましたが、アレはうそだったんだね。あーもう幻滅。結婚詐欺だよ、詐欺。騙されたよ」


 俺と楓は三年前に結婚した。大学一年生の頃に付き合いを始め、そのまま卒業後すぐに結婚したのだ。他の学生に比べて、多少早い決断とも思ったが、就職先も割と名が知れている場所だったので安心していたのに。

 問題は仕事ではなく、家庭の方にあったとは。


「わたしを騙すだけならまだしも。よりにもよって……色んな人を騙していたんだね。あの言葉は全部うそ。最低だね」

「あの頃は決して嘘じゃなかったさ。一生幸せにしてやると誓ったさ。で、でも……」


 誰がお前みたいな堕落嫁を養いたいと思うか?

 それぐらい自分で分かれっての。てか、騙されたのはこっちだわ。大学時代は「海斗くんのお嫁さんになったら幸せになれそうだね」とか「一緒に居るだけでわたしは幸せになれる」とか思わせぶりな態度を取って……おい、ちょっと待って。


 あれ……? 確かにコイツは幸せになってるよな??


「ダサいと思わないの? 男の癖に自分で言ったことさえも成し遂げられないとか……もう本当にダッサ。可愛いお嫁さんを一生幸せにすることもできないの?」

「誰が可愛い嫁だぁ? 自意識過剰もいい加減にしろよ。確かに、お前は見た目だけは可愛いだろうよ。でもな、性格は最低だぜ。思いやりの気持ちがない。それだけで完全アウトだ」

「はい、DVだねー。DV反対。海斗くんってさ、いつも都合が悪くなると、怒るよね? 素直になろうよ。ほら、謝って」

「謝る……? はい……あ、あの……何を言ってんだ?」


 俺から反論されるとは思ってもなかったのだろう。

 楓は一際大きな溜息を吐き出してきた。どうしてこんな簡単なことさえも分からないのと馬鹿にされている気分になる。


「海斗くんがふざけたことを言うからでしょ? 離婚しようとか。わたしに対しても散々酷いことを言ってきたし。もう二度と、楓さんには逆らいません。だから許してくださいって、謝ってよ。ほら早く!?」


 急かしてくるけど、俺は絶対に謝らない。

 ていうか、何だ、コイツは。今まで抑えてきたけど、俺の嫁は明らかに頭がおかしい。完全に湧いてやがる。こんな奴と一緒に、三年間住んだだけでも称賛に値することだろう。

 どんな職場に入っても、三年間は頑張れと言われるのと同じだな。転職しやすくなるからと同じだ。俺は絶対離婚する。


「おい、楓。いや……この堕落嫁ッ!? 俺は本気だぞ」

「えっ……? う、うそだよね……? う、うそ……」

「嘘じゃないぞ。俺は至って真面目だ。もう別れよう」

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