「一生幸せにします」と誓って早三年。社畜な俺は毎日残業続きだが、堕落した嫁は家でゴロゴロ。もう限界と離婚宣言したが、「幸せにするって言葉はうそだったの?」とか抜かすんだが、マジでコイツ殺処分してくれ。

平日黒髪お姉さん

第1話:社畜夫と堕落嫁

 自宅の扉を開くと、堕落嫁だらくよめ——カエデの笑い声が聞こえてきた。

 朝から晩まで必死に働いた俺に労いの言葉は一切ないのは、多少苛立ちがあるものの、胸の奥に留めて置くことにしよう。

 リビングへ入る。楓はソファーに横たわっていた。近くにはお菓子の食べかす。主にチョコレートやポテトチップスだ。


「あ、もう帰ってきたんだ。海斗カイトくんー。お疲れ様ー」


 俺の方を一切見ることなく、楓の視線はバラエティ番組に釘付けである。多少は振り向いて欲しいが、顔を合わせたところで殴りたくなるのでこのままでいいだろう。


「お前さ。ゴミ出ししろと言っただろ?」

「あーごめんー。今日はやる気出なかったんだよ。明日出すから大丈夫大丈夫だって」

「明日はゴミ出しの日じゃねぇーよ」

「あーそっか。それならまた今度でいいね」

「あのさーこれで何回目だ。偶には家事ぐらいしろよ」

「どうして?? どうして家事しないといけないの?」

「あのなぁー俺は働いてるんだよ。で、お前は何してるの?」

「家の安全を守るために警備かな?」

「お前の頑張りは認めてやる。だが家事はしろ」

「はい、DVだねー。はい、DV。ていうか、海斗くんの価値観はおかしいと思いますー。男は働きに出かけ、女は家を守るだっけ? もうそーいうのは古い考え方だよ」

「はぁ?? そうなのか?」

「そうだよ。現代の価値観では男が働き、そして家事までしっかりとして、女を守るというのが当たり前だよ?」

「現代の価値観じゃなくて、お前の価値観だろ、それは」

「あーもしかして海斗くん知らないの? 現代社会はレディーファーストなんだよ。レディーにもっと優しくしないと」


 ぷーくすくすと笑い声が聞こえてきた。小馬鹿にしているのだ。この女が自分の都合の良いことだけを吸収する人間だとは知っていたが、これまで酷かったとは。


「わたしさー。ちょっと肩が凝ってるんだよねー。揉んで」

「どうして凝ってるんだ?」

「胸が大きいからかな?」


 自慢するほど大きいわけではないと思うのだが、確かに豊かな胸を持つ女性は肩が凝ると聞いたことがある。


「揉んでやるから……お前も後から背中や腰を押してくれよ」


 二十代後半だが、体は少しずつ弱ってきている。残業続きだというのが、その一因になっているのは間違いないだろう。


「えっ……無理なんだけど。てか、自分で揉めばいいじゃん?」


 あ……やばい。もう、俺……限界かもしれない


「男でしょ? ちょっと仕事に行ってるだけで体が凝るとか、どれだけ軟弱なわけ? てか、ジジイじゃん。もう最悪ー」


 テメェに言われる筋合いはないと思うんだが。

 お前の方こそ、家でダラダラしてるだけだろうが。

 その癖、何を肩が凝っただの抜かしているのだ。


 まだよ。

 コイツが家事を熟す女ならば、十分に理解できる。

 だが、何もやってないんだぜ?

 朝から晩までダラダラ。俺が出かける際には、ぐーすかぴーすか寝息を立てているんだぜ。


 そんな女……もう無理!! 絶対に無理なんだが?

 三日前に使って油ギトギトのフライパンをそのまま使おうとするレベルに無理なんだが。


「もう限界だ。俺たち離婚しよう」

「はぁ? 何を言ってるの? 頭おかしいんじゃないの?」

「もう限界なんだよ!!」


 二度目の宣言で流石の楓も分かってくれたようだ。

 事の重大さに気付いたのか、テレビの電源を切って、俺の方へと顔を向けてくれた。容姿は相変わらず可愛らしかった。

 でも——口の周りはチョコレートが付着していた。お菓子の食いすぎである。


「うそつき」

「うそつきだと? 嘘を吐かれたのはこっちだよ。結婚詐欺だ、結婚詐欺!! 大学時代は自慢の彼女だったのに、今ではもう見る影もねぇーよ。だらしない女になりやがって」

「幸せにするって言葉はうそだったの?」

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