第27話 いい趣味
いい趣味だなあ――
整理された学習机、その横の金属バット、スポーツバッグと学校の鞄。ナチュラル系素材のベッドとクローゼット。壁に貼られたポスターは男性グループのもの。
男子の部屋に入るのは初めてだったけれど、はなえは、男子の部屋っぽいと感じたし、実に『長谷川くんらしい』と思った。
本棚に並んだ漫画の並びもそうだが、誠人の部屋は居心地がよかった。
「適当に
「ありがとう」
部屋を出ようとする誠人に、杏奈が慌てたような声を出す。
「は、長谷川は?」
「俺? おかんがなんか飲みもん買うてきた言うてたから――」
「ほな! う、うちも手伝う!」
「あれ、片岡は漫画選ばんでええん?」
「うちは、あんま漫画好かんし……や、なくて! えっと、漫画よう分からんし。はなちゃん……うちの分、選んでてくれへんかな!?」
杏奈が勢いよく、はなえの方を向く。はなえは親指と人差し指で輪っかを作りながら、軽く「おっけー」と言う。安堵したように杏奈が笑顔を作ると、ベッドに腰掛けていた『あべのの人』改め徹也が呑気な声で――
「おばさん、ジュース買うてくれたん? 僕も手伝おうかなあ」
「わっ!」
徹也の言葉に杏奈の表情が曇る。それと同時に、はなえが小さく叫び声を上げる。
ドササッ。
はなえの足元に漫画が数冊落ちる。
「落としちゃった。長谷川くん、ごめん」
「ああ、気にせんといて」
誠人が笑顔で落ちた本を拾い上げて、はなえに渡す。
「ありがとう」
と、お礼を言ってから、はなえが徹也を振り返る。
「ナベくんは、漫画を持って降りるの手伝ってくれる?」
「僕?」
徹也が自分を指さす。
「重かったら俺が今何冊か持ってくで?」
誠人の言葉に、はなえが首を振って、強めに言う。
「ううん、まだ選べてないから――杏ちゃんと下で待ってて」
「そう? ほな、片岡こっち」
「あ、うん……!」
杏奈が跳ねるように誠人の後を追って部屋を出ていく。
可愛いなあ――
はなえは微笑みながら、本棚に視線を戻した。
漫画のほかにも小説や図鑑なども並んでいて、意外に読書家である誠人の趣味は、やはりいい。こっちも面白そうだな、と背表紙の上をクイッと引いて確認していると、徹也が話しかけて来た。
「はしもっさん」
「ん?」
思ったより近くから聞こえた声の方を見ると、徹也が本棚にもたれていた。頭ひとつ高い位置にあるその目は、はなえの目をジッと見つめている。
「好きな人おる?」
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